阪神はなぜ生え抜きの“叩き上げ”が育たないのか…高卒野手は「掛布雅之」以降、誰一人伸びない“厳しい現実”
「阪神だけには、選手を預けたくない」
1990年から2001年までの12年間、阪神は最下位8度を含む、Bクラスが11年という低迷期が続き、ドラフト1位で獲得した選手が軒並み伸び悩んだ時期があった。以来、阪神からは“育成下手”というレッテルが拭い去れない。ただそれは、データからも裏打ちされており、ミスタータイガースこと掛布雅之以降、高卒野手では阪神在籍中に通算1千安打に到達した選手はいない。なぜ、生え抜きの叩き上げが、なかなか育たないのか。『阪神タイガースはなんで優勝でけへんのや』(光文社新書)の著者で、スポーツライターの喜瀬雅則氏が、その背景を分析した。(前後編のうち「後編」)
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阪神は、高校生が育たない。
その“負のレッテル”は、阪神の拭い難い定説のごとく、広まってしまっている。2012年に大阪桐蔭高のエース・藤浪晋太郎を1位指名しているが、それ以前の高校生ドラフト1位指名となると、2005~07年の大学・社会人と高校生の分離ドラフトとなった3年間を除き、1998年の高知商・藤川球児まで遡ることになる。
週刊誌や夕刊紙、スポーツ紙に「関係者によると」という出処不明、裏取り不能なコメントとして、高校野球の指導者たちが異口同音に語っているという、ある“噂”がある。
「阪神だけには、選手を預けたくない」
ちなみに「阪神」「高校生」「行かせたくない」の3つのワードでヤフー検索をかけてみると、なぜか「2018年」に書かれたとされる原稿が頻出する。
藤浪が入団から3年連続で2桁勝利をマークしながら、プロ4年目の2016年から成績が伸びなくなり、制球難で苦しみ続けていた頃だ。
新人王は8人いるが、高卒の選手は一人もいない
その年、藤浪の母校・大阪桐蔭高は、藤浪がエースとして大車輪の活躍を見せた2012年以来の、甲子園春夏連覇を果たしている。
根尾昂(中日1位・投手)、藤原恭大(ロッテ1位・外野手)ら優勝メンバーから4人がドラフト指名を受けるのだが、藤浪が“停滞”していた状況に、高校野球の指導者らが阪神の育成力に疑問符をつけ、教え子を送り出すことへの不安があるというのが話の大筋だ。
阪神の「ドラフト1位」で新人王に輝いたのは、田淵幸一(東京/法大/68年)、岡田彰布、藪恵壹(三重/朝日生命/93年)、高山俊(千葉/明大/15年)の4人。
新人王は8人いるのだが、高卒の選手は一人もいない。
その一人である藪は、阪神で11年間プレーした後、2005年にFA権を行使、藤浪が2023年からプレーするオークランド・アスレチックスへ移籍した。
メジャー2シーズンで100試合に登板し、7勝1セーブ16ホールドをマーク。サンフランシスコ・ジャイアンツでの2008年には39歳199日で、当時の日本人メジャー最年長白星もマーク。帰国後の2010年は楽天でプレーした後、2011年から3年間、阪神の1、2軍で投手コーチを歴任している。
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