香港大手紙の名物「風刺漫画」が無念の連載終了 政府が“6回も批判”したその中身とは
風刺漫画にも「事実」を求める政府側
「ネタにマジレス」という言葉がある。明らかにウケ狙いの嘘ネタに対し、本気で反対意見などを唱える様を指すネットスラングだ。尊子の作品に対する一連の批判も「そもそも風刺漫画とはナンセンスでブラックなものですよ」と言いたくなる内容である。
政治や体制を風刺する世界のジョークは、そもそもシニカルでブラックだ。中国本土も同じであり、加えて香港は1997年まで、そうしたジョークの“欧州の本場”である英国に属していた。そんな土地で40年もの長寿連載を続けた尊子は、かなり優れたセンスの持ち主だと言える。
香港メディア業界も尊子には一目置いている。「明報」の従業員協会や香港記者協会、文化人らは次々と声明を発表し、尊子への感謝や将来への不安を表明した。「最後まで香港人のために戦った」と称える声もあった。あるメディア関係者は、「尊子の風刺漫画は40年にわたって香港人と共にあった」と力説する。
「時代を先取りし、歯に衣着せぬ風刺漫画でこれまで多くの物議を醸し、人気を博しました。平易かつ誇張しない表現でユーモアと皮肉を伝える彼の漫画は、香港人の日常生活の1シーンを反映しています。香港が大きな政治的混乱に直面した際も、香港人の気持ちを代弁してきました」
尊子の作品はさまざまな物議を醸しながらも、市民の目線で物事をとらえ、誰もが感じる矛盾や疑問を笑いとともに浮かび上がらせるスタンスは一貫している。
また、世界有数の高い人口密度で知られる香港には、濃厚で入り組んだ人間観関係が存在する。そんな場所でネガティブな意見をうまく“処理”するには、冗談めかしたり割り切ったりなどの工夫が必要だ。尊子の作品には、そんな“香港人のスタイル”を描く側面もある。
それでも政府側は、風刺漫画であろうとも「事実」を求めた。政府側がそうした“物言い”をつける状況は、これまで築いてきた香港文化にどのような影響を及ぼすのだろうか。香港の識者たちの一部は、似た性質の批判が今後もあり得ると考えている。「しっかりと統治している」と中国政府にアピールする“絶好のチャンス”になるという見方だ。
連載終了の発表があった11日、民政及青年事務局の麥美娟(アリス・マック)氏は、「香港はもはや風刺やジョークのコンテンツを許容できないのか」という記者からの質問にこう答えた。
「機関や個人の決定についてコメントはしません。政府として、異なる意見は謙虚に受け入れます。しかし、一部の虚偽発言や事実と異なることは明らかにしなければなりません」
同日夜、香港の公共図書館は尊子の著作を「下架」(書架から下すこと)した。その翌日の「尊子漫画」は、ガラス張りで書店のような図書館には人がおらず、隣で営業している「『下架』書店」がにぎわっているという内容だった。
そして13日、尊子の連載は2本同時に最終回を迎えた。「尊子漫画」は香港区議会を風刺する内容である。もう1つの「乜議員」は、雨に気づいた乜議員と夫人が傘を差し、ひどくなる雨の中で読者に笑顔で手を振ると、肩を並べて歩き去るという無言の3コマだった。