韓国は中国から独立できるのか? 米韓同盟を「対北限定」に定めた尹錫悦
「韓国より台湾が大事」とスネる?
――それを米国も分かっている……。
鈴置:十分に分かっています。だから日米豪印の対中包囲網であるQuadに韓国を入れない。入れれば「最も弱い輪」になって中国に包囲網を突き崩す手掛かりを与えるからです。
米国にとって、対北限定スクラムでも「無いよりはまし」。韓国が左翼政権だったら、それさえも不可能です。ただ、米国は韓国に対中包囲網に入れというのはあきらめる代わりに、韓国に「第2次朝鮮戦争が起きても手助けを期待するな。北朝鮮とはひとりで戦え。核抑止はしてやるから」と言い渡した、と思われます。
アジア安保専門家の間では「台湾有事の際、米国も日本も台湾救援に力を使い果たし、朝鮮半島に飛び火しても韓国支援に割く余力は残らない」というのが常識です。
――韓国よりも、同盟を結んでいない台湾の方が大事なのか――と韓国人がスネそうです。
鈴置:韓国か台湾か、という選択ではありません。米日にとって、中国のアジア支配を阻止できるか否か、が問題なのです。仮に北朝鮮が韓国を併呑しようが、たかだか朝鮮半島止まりです。
――「ひとりで北朝鮮と戦え」と申し渡された尹錫悦大統領。それを受け入れたのでしょうか?
鈴置:中国包囲網に加わらない――つまり、米韓同盟は二流の同盟と認めた以上、受け入れざるを得ません。米韓首脳会談後の共同会見での尹錫悦大統領の冒頭発言をご覧ください。
・Now our two countries will share information on nuclear and strategic weapon operations plans in response to North Korea’s provocations and have regular consultations on ways to plan and execute joint operations that combine Korea’s state-of-the-art conventional forces with the U.S.’s nuclear capabilities, the results of which will be reported to the leaders of our two countries on a regular basis.
「北朝鮮の挑発に対し実施する統合作戦は、韓国の最先端の通常兵器に米国の核戦力を合わせて」と述べています。「通常兵器による戦いは主に韓国が担う」ということでしょう。
今回の首脳会談で米韓同盟は強化されたように見える。でも、子細に眺めれば、同盟は「北朝鮮専用」となり、しかも、米国が投入するのは「核の傘」だけに縮小したのです。
「二流の同盟」に格下げ
――日本では「米韓がしっかりとスクラムを組んだ」と見る人が多い。
鈴置:韓国がこぞってそう宣伝したためです。「俺の後ろには米国が付いた。舐めるなよ」というわけです。「米韓」の11日後にソウルで日韓首脳会談が開かれることになり「キシダの謝罪」を韓国側が要求する展開になったことで加速しました。
中央日報の社説「岸田首相が誠意ある呼応する番だ=韓国」(5月2日、日本語版)が典型です。「岸田訪韓が予想よりも早まったのはバイデン大統領の圧力が働いたからだ」と断じ、見出しにあるように「だからキシダは謝罪せよ」と主張したのです。
こうした声に応じ「韓国に謝罪しないと米国に怒られる」と言い出す日本の専門家が出ました。それらのおかげで「米韓蜜月時代」というイメージが日本に定着したのです。
「日本も米国とNCGを作りたい」と願う安全保障を重視する人々の声も影響したと思われます。彼らは日米NCGの必要性を訴える際、まず「米韓がNCGで強固なスクラムを組んだ」と強調するからです。実際は「二流の同盟」への格下げを確定した首脳会談だったのですが。
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