歓迎されない「天下り官僚」と高評価の「元官僚」はどこが違うのか【国交省OB人事介入の闇】
若手が辞めていく
いっぽうで、霞が関では、入省数年の若手の退職、新卒の就職希望者の減少が深刻な問題となっている。農水省では、職員が農林水産業をPRする専用チャンネル「BUZZMAFF」が人気だが、ここで活躍したYouTuberたちが相次いで退職し民間に転じている。若手職員に自由に活躍させている感のある農水省でもこの状況なのだから、他は推して知るべしだ。厚生労働省でも若手クラスが退官し、製薬会社などに転じているケースがある。
人事院の発表では、国家公務員の希望者の申し込み状況は、コロナ禍の安定志向の影響か2022年度は持ち直したものの、2023年度は再び落ち込み、過去2番目の低水準だった。
ある東京の有名国立大院生は、経済産業省など複数の経済官庁への就職を検討し、説明会にも出かけたが、最終的に大手情報産業に進むことを決めた。「いずれ起業したいが、官庁で若いうちに経験できそうなことがあまりないように感じた」と打ち明ける。給与面が問題だったのではない。よく指摘される、「国会対応での議員からの質問取りで夜遅くまで拘束される」といった、やりがいが感じられない仕事が影響していることは間違いない。
かつ現在の若い世代は、官庁を民間企業と同じ就職候補先の一つと考え、終身雇用の先としては考えていないこともわかる。実はこの例は水面下では起きていた。政治家になりたい人材は、まずは霞が関を目指す、という傾向があるのである。例えば岸田首相の懐刀として知られる内閣官房副長官の木原誠二氏、村井英樹氏はともに財務省出身で、早くから政治家を志していたが、「地盤・看板」は持っておらず、まずは官僚になり、キャリアを積んでチャンスを待っていたことで知られている。
他にも若手政治家で官僚出身者は増えている。かつては加藤勝信・元厚労相のように、官僚が有力政治家の娘婿になるなどして政界入りするケースが多かったが、そうした機会は時代とともに減っている。いずれにせよ、優秀な人材の流出が加速していることは間違いない。
ことほどさように、霞が関を取り巻く人材活用は悪化の一途をたどっている。肝心なのは給与とやりがいだが、どちらもすぐの好転は難しい。昭和時代のように天下り先が確保され「そこで高給を得て、新卒で民間企業に行った場合以上の生涯賃金を得る」という発想は過去の遺物となり、50歳代そこそこで退官した後あるのは「老害」の人生だ。何より厳しいのは、若いうちは、「やりがい」のある仕事が少ないことであろう。
いっぽう民間企業はIT系を中心に、優秀な人材を確保するため、こぞって初任給の引き上げに取り組んでおり、若いうちから仕事を任され、スキルを持つ人材を破格の待遇で引き抜くのは当たり前だ。給与面の引き上げに、霞が関ではすぐには対応できない。人事院の任用制度は、官民均衡レベルの給与水準が前提となっており、高給で人材を引き抜くという発想は現段階ではありえない。
そのため当座、手を付けられるのは、福利厚生の改善くらいであり、人事院は、介護や育児を担う職員に許可してきた「週休3日制」の対象を全職員に広げる方針を内閣に勧告する。この施策は、女性には響くかもしれないが、「特効薬」にはなりようがない。そのせいか各省庁の人事担当者からは「女性が増え、地方公務員と同じ状況が生まれつつある」という指摘とともに、「新人に東大卒が激減した」「これまで殆どなかった私大や地方大出身者が増えた」という声をよく耳にする。
必ずしも東大卒のほうが私大、地方大出身者よりも優秀というわけではなく、こうした状況は、ダイバーシティの観点から言えば、決して悪いことではない。だが「日本で一番頭のいい東大卒の中でも、上位の優秀な人材しか集まらなかった」かつての主要官庁出身者からすれば、落日の感はぬぐえないのだろう。
国を動かす大きな仕事に魅せられ、使命感と誇りを持って働いている官僚を筆者は何人も知っている。先に触れた堀本氏、長野氏のように、おそらく民間に転じても一定の成果を出せる人材は少なくない。いま霞が関に必要なのは柔軟性のある人材活用だ。
霞が関で一時的にキャリアを積むことがプラスになるような中途採用を、課長級、局長級、ひいては次官級でも実施する、若手を疲弊させる業務を一部でも外注する、第二新卒の年次でも入省できるようにする、風通しをよくして、若手でも政策実現を担う仕事を任せる仕組みを作る、といった形だろうか。いっぽうOBに対しては、民間での再雇用に向け、主要企業が実施しているような「第二の人生」に対する再教育の実施に加え、「霞が関ハローワーク」のような仕組みも必要になるのではないか。
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