人口世界一になるインドへの懸念…中国のように世界経済をけん引する存在にはなれない事情

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再び囁かれる「ヒンズー成長率」

 インドは今後10年で雇用を2億人増やす必要があると言われており、そのためには輸出志向の労働集約型製造業の競争力強化が不可欠だ。

 モディ政権も「GDPに占める製造業の比率を25%にまで引き上げる」との政策目標を掲げていることが、「言うは易し、行うは難し」だ。

 インド政府は製造業の競争力強化に躍起になっているが、インフラ投資の強化や労働市場改革など取り組まなければならない課題は山積みだ。

 残念ながら、識者の間でインド経済の今後を悲観視する声が強まっている。

 その代表格は元インド準備銀行(中央銀行)総裁のラグラム・ラジャン氏だ。ラジャン氏は「高成長を見込める要因が見当たらず、インド経済は減速する」と手厳しい(4月19日付日本経済新聞)。1950年代から80年代にかけて、インドの経済成長は途上国の中で低かったため、「ヒンズー成長率」と揶揄されてきたが、この用語が再び囁かれるようになっている。

 経済が失速すればインドの失業問題がさらに悪化するのは火を見るより明らかだ。

 若年人口が社会の過半を占めるインドでは暴力事件が多発しており、過去には政権を揺るがす事態に発展したこともあった。若年人口の不満を抑えるためにはインド政府のさらなる取り組みが不可欠だが、見通しが明るいとは言えない状況にある。

 グローバルサウスの代表として存在感を増しつつあるインドだが、世界を牽引する新たな盟主としての成長モデルを見いだせていないのが実情なのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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