人口世界一になるインドへの懸念…中国のように世界経済をけん引する存在にはなれない事情

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「中国プラスワン」もインドにとって追い風だが

 世界一の人口大国となることが確実視されるインドへの期待が日増しに高まっている。

 国際通貨基金(IMF)は5月2日に発表した見通しで「今年は中国とインドが世界の経済成長の約50%を担う」との分析を明らかにした。足元の状況は、ゼロ・コロナ解除後の中国経済の回復が芳しくないこととは対照的に、インド経済は好調さを維持している。

 中国の4月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は前月より2.9ポイント低い49.2と、好不況の境目である50を4カ月ぶりに下回った。

 一方、インドの4月のPMIは57.2と4カ月ぶりの高水準だった。

 IMFはインド経済の今後5年間の成長率を6.0%と見込んでおり、2028年には日本を抜いて世界第3位の経済大国になると予測している。

 グローバル企業の「中国プラスワン」戦略もインドにとって追い風だ。多くの国が中国一辺倒の投資に不安を感じる中、リスクの分散先にインドが選ばれるようになっている。中でも、米アップルの請負業者が高価格帯のiPhoneをインドで組み立てるための初期投資を行ったことは世界の注目を集めた。

 人口が増加し続けるインドは、20年前の中国のように、世界経済を牽引する存在になっていくのだろうか。

 インドは人口が世界最多になるだけでなく、現役世代の比率が高いことも特徴だ。現在、全人口の7割近くを占める生産年齢人口(15~64歳)は2050年まで増加することが見込まれている。だが、このことを強みにするためには、彼らに雇用の機会を提供することが絶対条件だ。スキルを十分に発揮できる雇用の場を提供できて初めて、現役世代の多さが成長の源泉となるからだ。

 世界銀行によれば、2021年のインドの1人当たり国内総生産(GDP)は2257ドルで、中国の1万2556ドルの6分の1に過ぎない。

慢性的な雇用不足に苦しめられるインド

 中国は膨大な人口を先進国の製造業の労働資源として提供することで「世界の工場」となり、大成功を収めてきた。だが、インドの製造業はお世辞にも競争力があるとは言えない。

 世界銀行によれば、製造業がGDPに占める割合は中国が27%、ベトナムが25%であるのに対し、インドは14%に過ぎない。人口14億人のインドの輸出製品の金額も人口1億人のベトナムとほぼ変わらない。

 気になるのは、2019年にインドの1人当たりのGDPが隣国バングラデシュに追い抜かれたことだ。IMFによれば、2028年にはバングラデシュは4164ドルとなり、3720ドルのインドは400ドルもの差を付けられることになる。

 バングラデシュの成長は同国の縫製産業の躍進によるところが大きい。バングラデシュの縫製産業は過去20年の間に欧米のバイヤーが要求する厳しいコスト・品質・納期などに対応できる能力を身につけ、中国に次ぐ世界第2位の縫製品輸出国となった。バングラデシュでは多数の女性労働者が縫製産業に従事しており、その人的資本の水準はインドを上回るようになっている(4月18日付日本経済新聞)。

 中国を始めアジアの国々は、労働集約型の製造業の製品輸出のおかげで多くの雇用を創出できたが、製造業に弱みを抱えるインドは慢性的な雇用不足に苦しめられている。

 インドではここ10年、毎年700~800万人の求職者が市場に参入してきたが、新規の雇用を満足につくることができなかった。このため、職にありつけない若者は農村にとどまるしかなく、インドでは全労働者の45%が農業分野に従事していることになっている。求人数が求職数に比べて圧倒的に少ないことから、若者は日々を生き抜くための低賃金の仕事に従事せざるを得ず、インドの人的資本の活用状況は低調のまま、「宝の持ち腐れ」になっていると言っても過言ではない。

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