原爆「平和記念資料館」元館長が明かす、首脳たちと観光客に見てほしいもの 「表面的に残ったもの以上に、被害の現実を」
サミット初日の今日、岸田総理自身がG7の各国首脳夫妻を出迎える大舞台に選んだのが、広島市の平和記念公園だ。園内にある原爆死没者の慰霊碑や原爆ドームと共に、各国首脳が見学を予定しているのが広島平和記念資料館。ウクライナ侵攻やサミットの影響なのか、インバウンド客の人気スポットだという。
来館者数は先月だけで16万2802人、うち外国人が半数以上の9万464人。過去最高を記録した19年の来館者数に並ぶ勢いで、入口で90分待たされることもあるんだとか。
「1日7千~8千人も来館者がいて、大半が外国人という日もあるそうです」
そう話すのは、広島平和記念資料館の元館長・志賀賢治氏(70)だ。
「宣伝の類は一切していないのでクチコミの影響が大きい。キューバのフィデル・カストロ前議長も、チェ・ゲバラからのクチコミで来館したと聞いています。7年前の伊勢志摩サミットでは、広島でG7外相会合が行われ、米国のケリー国務長官が展示物を一点一点じっくり見てくれました。当時外相だった岸田さんが各国外相らを案内しましたが、ケリーさんだけが集団から遅れるほど関心を持ってくれた。それで米国大統領も来てくれるだろうと確信しました」
「表面的に残ったもの以上に…」
ケリー氏からのクチコミが功を奏したのか、伊勢志摩サミットの閉幕後、現職の米国大統領としては初めてバラク・オバマ氏(61)が広島を訪問。資料館への来館を果たしたが、スケジュールの都合で10分前後しか滞在しなかった。
再び志賀氏が言う。
「先方の要望で、エントランスに展示物を集めて対応しましたが、切り取られたものをみても統一感がなく被害実態が伝わらない。大変残念に思います」
やけどで皮膚が垂れ下がった姿を再現した被爆者人形も、オバマ氏が目にすることはなかった。見学者に強烈な印象を残す展示だったが、19年の資料館リニューアルでお蔵入り。各国首脳の目に触れる機会はない。
「撤去当時の館長として賛否両論があったことは承知していますが、人形は服を着て男女の区別もつく。実際はもっと悲惨な姿だったので、被害の実状を伝えていないという批判が被爆者の中からあったのです。現在は人の影が焼き付いた階段や、“魂の叫び”といわれる被爆者の遺影と遺品を一点一点並べた展示など、あの日ヒロシマにあった物を中心に据える形に変更しています」(同)
被爆2世で被爆体験伝承者1期生の永原富明氏(76)は、こう訴える。
「“人形どこですか”と尋ねられる来館者が多く、サミットでも世界の首脳に見てほしかったとは思っています。平和記念公園のある場所は元は繁華街で、映画館やカフェがあったけど今は跡形もない。そんな話をすると、皆さん驚かれます。表面的に残ったもの以上に悲惨だった被害の現実を、なんとかG7で訪れる人たちには知って帰ってもらいたい」