「不倫する側される側」全員の後ろめたさを描く「あなたがしてくれなくても」 勧善懲悪じゃない構図が好み
ハエの交尾を見て「幸せ者」とうらやみ、会社の同僚が2人目を妊娠したと聞いて、祝福より前に「いいなぁ、セックスしたんだ」と嫉妬する。その思考回路、まさにセックスレスの切実な不全感。「あなたがしてくれなくても」の初回冒頭だ。
【写真9枚】レス解消のために「奈緒(28)」が選んだ下着の色は
主役は奈緒、してくれないというか、妻とはできない夫を永山瑛太が演じる。また、奈緒の会社の上司で、同じくセックスレスに悩むのが岩田剛典、その妻を田中みな実が演じる。奈緒と岩田の不倫が主菜ではあるが、この二組の夫婦の心情、特に焦燥感や罪悪感を丁寧に描く。いいね、好物だわ。
不倫した人間をコテンパンにたたきのめすのではなく、かといって不倫をロマンスと美化するのでもなく、今のところは夫婦間のズレが亀裂となる途中段階。ズレというか隙間風かな。世界中のどの夫婦にも確実に吹いている隙間風に、私は反応してしまう。いい夫婦と絶賛される人ほど、うそ臭いなと思ってしまうからなぁ。
このドラマでいいなと思うのは、勧善懲悪ではないところ。不倫する側にもされる側にも、それぞれの葛藤があり、一概に「こいつが悪い!」と言い切れない点だ。むしろ四人全員に共感ポイントがある気もする。
まず、奈緒はモヤモヤをちゃんと口にする点がいい。「言わなくても察してよ」ではなく、ハッキリ「したい」意向を伝えている。波風立てるのを避けるくせに、ストレスをためこんで被害者ヅラするような矛盾もない。夫の好意をぞんざいに扱い、自省する素直さもあるしね。
その夫、瑛太は喫茶店の雇われ店主。独断で雇ったアルバイト(斜に構えるが、実は純情直球型のさとうほなみ)に、本能の赴くままに手を出しちゃった身勝手なクズではあるが、妻への愛情は想像以上に濃くて深い。自慰する性欲はあるが、妻には勃起しない「妻だけED」に悩む。最低とは思うが、繊細で不器用な男の複雑な心境(と下半身事情)は一概に責められず(問題に向き合おうとしない逃げ癖は全力で非難するけど)。
岩田は優しくて、仕事も家事も人への配慮も完璧な男であるがゆえの苦悩を抱える。病気の母(大塚寧々)が常に夫の顔色をうかがうタイプで、心中で嫌悪しながらも自分もその類になっているわけだ。うそ臭い笑顔がしっくりくる。心の病み具合は一番深い気もする。仕事はできないが、男女関係に目敏(めざと)い部下・武田玲奈もつけこんできそうな気配。
岩田の妻・みな実の焦燥感と余裕のなさも、ちょっとわかる。ファッション誌の副編集長で、キャリアアップに最も重要な時期。脳にも心にも余裕のない30代の女ってこういう感じなのよ。築いてきた実績に自負はあっても実は自信がなくて、評価を欲しがってしまう。夫が優しければ優しいほど責められている気分になるのもよくわかる。なんならクズ夫のほうが心穏やかになれるという心理。妙に納得。
全員に後ろめたさがあって、善悪の構図が単純な不倫モノではない。成敗や懲罰ではなく、後悔や罪の意識をどう描くか。人生におけるかすり傷で済むのか、致命傷となるか。楽しみだ。