「あと10分歩けば寿命が9カ月延びる」 専門家が教えるウオーキングの適正歩数とは?
5千歩以上にならない限り…
では次に、すでにフレイルになっている高齢者に関して見てみよう。
再び渡邉助教が説明する。
「図Bの真ん中の実線を見ていただくと、1500歩のあたりを基準にして見た場合、そこから5千歩まで増やしても、ほとんど死亡リスクが下がっていないことが分かります。ところが、5千歩を超えてくると、有意に死亡リスクが低減しています。つまりフレイルの方は、1日の歩数が5千歩以上にならない限り、死亡リスクを減らすという意味ではどれだけ歩いても効果はないということになります」
どうして「5千歩」が境目になるのだろうか。
「フレイルは、運動不足によってのみ陥ってしまうものではありません。栄養不足であったり、また社会との接点を失い、いわゆる引きこもりがちになるなどの精神的な影響もあると考えられています」(同)
5千歩の意味
それを踏まえて5千歩の「意味」を考えてみる。
「いくら歩数は家事などでも増やせるとはいえ、一日中家の中にいて5千歩、1時間弱歩くのは、現実的にはなかなか難しいでしょう。フレイルでも5千歩以上歩ける方は、やはり外に出て、同時に人と会話をするなどして社会とのつながりを持っている。運動面だけでなく、社会との接点がいくらか保てているラインが5千歩と見ることができるのではないでしょうか。5千歩まで歩数を増やせない方は、社会的なつながりも回復できないので負のスパイラルを抜け出しにくいのかもしれません」(同)
宮地教授が後を受ける。
「坂道の上の方が健康な状態、下の方が要介護状態、さらにその下には死亡が待ち構えていると考えると、フレイルはその坂道を転げ落ちていく途中の状態です。フレイルでも、5千歩歩けている方はまだ坂道で何とか踏ん張れていて、それ以下の方はもう坂道を上り直す力を失っている。『5千歩』の意味をそう捉えることもできます。やはり、フレイルで筋力が弱っている方が歩数を増やすのは簡単ではない。したがって、どうにかフレイルになる前に踏みとどまろう、というのが今回の研究調査の大事なメッセージのひとつでもあるのです」
なるほど、改めて「+10」の意義が伝わってくる話である。
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