「あと10分歩けば寿命が9カ月延びる」 専門家が教えるウオーキングの適正歩数とは?
10分で千歩
何はともあれ、「万歩」と言うように、ややもすると1万歩歩かなければ健康効果は得られないのではないかとも思い込みがちだが、フレイルに至っていない比較的健康な高齢者に関する限り、5千~7千歩までは歩けば歩くほど死亡リスクが下がる一方、そこまでで十分で、逆に言うと、こと死亡リスク低減に限って言えばそれ以上は「不要」というわけだ。
「4165名の1日の平均歩数は約4200歩でした。従って、平均的な活動量の高齢者は、あと千歩から3千歩弱、歩数を増やせば、より健康になれることになります」(同)
では、5千~7千歩とは、どれくらいの時間歩けば達成が可能なのだろうか。
宮地教授が解説する。
「1時間歩くと6千歩、とイメージしていただくといいと思います。したがって、10分歩くとだいたい千歩稼げると考えてください」
1日10分歩行時間を増やす
とどのつまり、フレイルではない高齢者が死亡リスクを下げ続けるためには、1日1時間前後歩くことが求められるわけで、「毎日1時間のウオーキングはしんどい」と諦めてしまいそうである。しかし、
「先ほども申し上げたように、家の中で掃除をしたり、洗濯物を干したり、ちょっと外出するのも『歩行』ですから、そう考えると1日で計1時間歩くのは、そう高いハードルではないと感じられるのではないでしょうか」(宮地教授)
渡邉助教が補足する。
「1日の歩数が5千歩未満の方が千歩、つまり10分歩行時間を増やすと死亡リスクは23%低下します。これを寿命に換算すると、9~10カ月、寿命が延びることに相当します」
厚生労働省はかねて「+(プラス)10」という身体活動指針を示し、今よりも10分多く体を動かすことを促してきた。宮地教授も策定に携わったこの「+10」の有効性が、今回の調査結果で改めて補強された格好である。
それにしても、二足歩行は人間の基本であり、歩けば歩くほど健康にいいイメージもあるが、なぜ歩行の効果は頭打ちになってしまうのだろうか。
「そもそも、歩行がなぜ健康長寿をもたらすのか。それは歩くことによってエネルギーを消費するので肥満になりにくく、肥満から生じるさまざまな生活習慣病の予防につながるからです。また、歩くと血流が良くなるため、動脈硬化を防げたり、血管の若返りにもつながります。要は、歩行は人間が死ぬ原因となる多くの病気になるリスクを下げてくれるわけです」(宮地教授)
いいことずくめにも思えるが、一方で、
「その方の筋力などに見合わず歩き過ぎたために膝や腰を傷(いた)めてしまったり、急に歩数を増やして転んで骨折し、フレイルに陥ってしまうこともあります。薬も栄養も取り過ぎは良くないのと同じで、歩行にも各自の閾値(いきち)があるのです」(同)
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