「顔中にガムテープの遺体が自宅に…」母親が起こした殺人事件を告白 当時18歳だった俳優の凄絶な過去

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 俳優の前田勝さんは凄絶な過去を持つ。

 18歳の時、母親が義父を殺し、その後自死したのだ。

 16年後、前田さんは事件の背景を知るため、ドキュメンタリー番組「ザ・ノンフィクション」(フジテレビ系)の取材で母親の生涯をたどる旅に出た。2018年に番組は放送され、大きな反響を呼ぶ。

 事件に至るまでの経緯、前田さんの家庭環境は少し複雑なのでここで簡単に説明しておこう。

 前田さんは韓国人の母と台湾人の父の下、韓国で生まれた。彼が3歳の頃、両親は離婚。母親は一人で日本に出稼ぎに出る。幼い前田さんは母と共に暮らすことを願っていたという。

 その後、母親は日本で再婚をし、12歳の前田さんを日本に呼ぶ。母と日本人の義父との生活が始まったのだが、幸せな時間は束の間だった。義父の浮気が母の精神を苛んでいったのである。

 そして、前田さんが18歳の時に、悲劇は起きた――被害者、加害者両方の身内という立場になった前田さんが その体験をつづった『遠い家族―母はなぜ無理心中を図ったのか―』から、事件に直面したときの衝撃、心の動きを追ってみよう(以下、同書をもとに再構成しています)(前後編の前編/後編につづく)

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忘れられない母の最後の顔

 高校の卒業式から約20日後、大学入学まであと1週間となったときに、バスケ部で最後の合宿をすることになった。下級生たちは通常の合宿として、卒業する僕たち3年生は、最後の思い出作りとして。

 合宿先までは母に車で送ってもらった。家から車で約40分。これが母と過ごした最後の時間になった。母は車の中で、「今までのように、外食ばかりしていたらお金が掛かるよ。炊飯器でご飯を炊いて、外でお惣菜を買ってきて食べたら、節約になるからね。洗濯も大変だけど、自分でやるしかないからね」「これからはお母さんからも、お義父さんからもお金をもらえるわけじゃないからね」などと言っていた。

 まるで自分はもういなくなるかのように。そんな風に言われて、僕はどう返したらいいんだ。

 合宿先に着いたときの母の最後の表情。僕をじっと見つめたあとに、涙が溢れそうになって、それを隠そうとした母。その顔が今でも忘れられない。本当に情けないが、このときに、母から5万円ほど渡された僕は、大金をもらったという嬉しさしかなかった。

 母からのSOSの信号を、僕は結局最後の最後まで見て見ぬふりをするか、気づかないまま終わってしまったのだ。母はそんな僕をどう思っていたのだろうか。帰り道、車の中で一人でなにを考えていたのだろうか。

家にパトカーが

 この合宿中は、家のことを考えないようにして、必死に友人たちとの最後の時間を楽しもうとしていた。しかし、2日目の夜の練習が終わり、部屋に戻って携帯を見ると、知らない電話番号から着信があった。すぐに折り返してみると、知らない女性が電話に出て、切羽詰まった声で、「いま家で大変なことが起きているから早く家に行って!」と言った。事情がわからなかった僕は、「今バスケ部の合宿中です」と答えた。するとその女性が「なに言ってんの! 家が大変なことになっているからすぐに戻りなさい!」と、さらに強く言ってきた。そこで初めてただ事ではないと感じた僕は、慌てて合宿先にタクシーを呼んでもらい、家に向かった。

 タクシーの中で、電話の女性の切羽詰まった声を反芻した。そして、母と義父のケンカや、母の最近の言動を思い返す。まさか、いやいや、そんなはずはない。でも、家でなにが起きているんだろう。どうして母や義父ではなく、知らない女性から電話が掛かってきたんだろう。早く家に着きたい気持ちと、怖くて家に着きたくない気持ちでパニックになり始めていた。

 マンションに着くと、パトカーが何台も止まっていて、映画で見るような黄色いテープが、周囲にたくさん張られていた。警察官も何人もいた。その中の一人に、家に入れないから鍵を開けて欲しいと言われた。言われるがままにドアを開けようとしたが、鍵穴に鍵を入れる自分の手が小刻みに震えている。

 なんとか鍵を開けると、警察官が一斉に家の中に入って行き、僕は外で待っているようにと言われた。3月末の夜、寒さのせいなのか、恐怖からなのか、手の震えが体全体に広がる。それまで体験したことのない震えだった。

義父の遺体を確認

 しばらく待っていると、家の中に入るように促された。「部屋の中で、男性の方が亡くなっています。その遺体を確認して欲しい」と言われた。男性の遺体。それは、もしかして。案内されたのは、玄関からすぐそばの、義父が使っていた部屋だった。

 そんなはずはない。絶対にない。祈るようにして部屋の中に入っていくと、見覚えのある背格好の人が床に横たわっていた。半年前に比べると、お腹の膨らみがとても大きくなっていて、ああ、あっちの家(注・別の女性宅)で幸せに暮らしていたんだなと場違いな思いが頭をよぎった。

 顔全体にガムテープが巻かれていたが、義父に間違いなかった。顔の他にも、首と両足首の2か所をネクタイで縛られ、すぐそばのテーブルの上には、ハンマーが置いてあった。床と壁には、たくさんの血が染みていた。

 ちゃんと顔を見て確認をして欲しいと言われ、顔のガムテープをめくってくれたが、とてもじゃないが見られなかった。それでも間違いなく義父だった。だから僕は、間違いありませんと答えた。およそ半年ぶりに見た義父は、死体となっていた。ただ、今すぐにでも起きてきそうに思うほど、現実感がまったくなかった。

 義父の遺体確認のあと、僕の部屋に、母らしき人からの手紙があると教えられた。でも、それは今はまだ見せられないとのことだった。そして息子に手紙を残していることから、「突発的な殺人ではなく、計画的な殺人と推測できる」と言われた。

 突発的とか計画的とか、そんなことよりも、母が今どうしているのかを教えて欲しかった。

 そのあとは、僕の事情聴取のために、パトカーで警察署に向かった。

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前田 勝(まえだ しょう)
1983年、韓国人の母と台湾人の父の下、韓国で生まれる。7歳まで韓国、12歳まで台湾で暮らす。日本人と再婚した母に呼ばれて12歳で来日。大学入学直前、母が義父を殺して無理心中を図る。大学中退後、東京NSCに入学。卒業後は舞台俳優となる。客演の傍ら劇団を主宰し、母の事件を描いた舞台を上演。2018年、ドキュメンタリー番組「ザ・ノンフィクション」に出演し、母の生涯をたどる。同番組は北米最大級のメディアコンクール「ニューヨーク・フェスティバル2019」ドキュメンタリー・人物伝記部門で銅賞を受賞。2021年「茜色に焼かれる」(石井裕也監督)で映画初出演。舞台にも立ち続けている。

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 後編【義父の遺体を確認した僕に警察は「もう一人も確認を」と言った 被害者と加害者の身内になってしまった息子の手記】へつづく

※前田勝『遠い家族―母はなぜ無理心中を図ったのか―』から一部を再編集。

デイリー新潮編集部

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