変わりゆく保険業界で「主体性」を持つ社員を育む――舩曵真一郎(三井住友海上火災保険社長)【佐藤優の頂上対決】

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主体性を持たせる

佐藤 不正検知では、AIを使ったシステムを導入されたそうですね。

舩曵 フランスのシフトテクノロジー社というスタートアップが持つ、保険金不正請求検知ソリューションを導入しました。悪い人が儲けて、善良な人の保険料が上がるようなことは絶対にあってはなりませんから。

佐藤 ただ、どんどん新しい手口が出てくるのではないですか。

舩曵 AIだけでは検知できない不正も多いですね。不正請求の方法が常に変化していくのに、AIは過去のデータをもとに判断します。だから後追いになることもある。つまり新しい不正は、人が見抜かなければなりません。

佐藤 そこは経験がものを言う。

舩曵 そうですね。違和感を感じる力が必要です。それを育むのが経験と感性です。そしてその大本には正義感が必要です。

佐藤 なぜこんなによく病院に通っているのか、どうして何度も交通事故に遭うのかと思っても、正義感がなければ、面倒臭いと見逃してしまう。

舩曵 日々忙しいので、自分には関係ない、と思ってしまいがちですし、どうしてもアクションにつながりづらい。そこを超えていくのは、やはり正義感です。当社の保険金支払に携わる社員はとても正義感が強く、それが公平な保険制度を支えています。

佐藤 単体でも1万人以上、グループでは2万人以上従業員がいますから、そうした意識を作り出していくのは非常に大変なことだと思います。舩曵社長は組織運営の要諦は何だとお考えですか。

舩曵 主体性をどう持たせるか、ですね。人数が多くなっていくと、どうしても主体性が乏しくなっていきます。そうすると指示待ちになりますし、何か思いついても、言ってもしょうがないなと思うようになる。ですから若い時から主体的に考え、行動する環境を作っていくことが大切です。

佐藤 具体的にはどうするのですか。

舩曵 権限の委譲ですね。権限は役員や部長に集中しますが、それを課長やチームリーダーに移していく。決裁額にしても判断領域にしても、権限をどんどん下へ移していくことが重要だと思っています。これまで5年目から与えていた一定の金額、一定の領域についての権限を、この4月からは入社2年目から与えることにしました。

佐藤 権限には責任も伴います。

舩曵 ですから、適切な判断をするために自分で勉強するし、知識も得ようとする。そして判断に迷う場合には上司に相談するので、コミュニケーション力も高まっていく。若い人には失敗を恐れずにやってほしいんですね。本来、仕事で失敗して大きくとがめられるようなことって、そんなにないですから。

佐藤 私もそう思っていたのですが、東京地検特捜部に逮捕されることになりました(笑)。

舩曵 そうでした(笑)。でも佐藤先生の場合は、スケールがまったく違いますから。

佐藤 資料を拝見すると、舩曵社長は、若い頃からさまざまな保険を開発されてきたアイデアマンですね。レンタルビデオ店が各地で隆盛を誇った際にはレンタルビデオ補償保険を、コンピューターが普及しつつあった時にはシステム会社向けにバグ補償の保険を作られています。

舩曵 当時、レンタルビデオ店はテープが破損して戻ってくることに困っていたんですね。若い頃はそうしたことに自然と気が付くものです。だからこそ、それを生かしていく環境が必要です。

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