10人の実力者をたった5分ほどで投げ飛ばし… 日本人が知るべき「フランス柔道の礎」道上伯の伝説(小林信也)
「お家芸」の感覚で
フランスの勝利は、道上が注ぎ続けた武道の心技体をフランス柔道が底流にいまも継承している証しなのかもしれない。日本ではそれが失われつつあることを誰が自覚しているだろう。現状のルールの中で勝つことが何よりの価値。勝ち負けに一喜一憂する日本にはもうそんな見識は感じられない。雄峰が言う。
「来年のパリ・オリンピック、フランス国民はまるで『お家芸』の感覚でフランス柔道に期待しています」
もはや「柔道が日本のもの」と思っているのは日本人だけなのかもしれない。フランスは日本を超える柔道大国になり、武道としての心技体を日本より色濃く継承している。その礎に道上伯がいたからだ。
今春のWBCを思い出す。野球はアメリカで生まれた競技だが、いまや日本こそアメリカ以上の野球強国だと信じる日本人も増えただろう。それと同様のことが、柔道ではヨーロッパで起きている……。
5月7日から14日まで、カタール・ドーハで柔道世界選手権2023が開かれる。男子100キロ超級にはロス、ソウル五輪で連続金メダルを獲った斉藤仁の次男・立(たつる・21歳)が出場する。単に勝ち負けでなく、熱い柔道家だった父・仁から無言で受け継ぐ柔道魂の覚醒を期待する。