NHK「のど自慢」 番組責任者が明かす“予選会の知られざるカラオケ活用法”

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積み重ねたシミュレーション

 ミュージシャンや音楽の専門家にヒアリングを重ね、打ち込みが主体のデジタル音源にどう対応するかもプランを練った。

「従来のバンドではキーボード担当は2人でしたから、これでは足りないのは明白でした。デジタル音源に対応できるミュージシャンを増やし、地方ではミュージシャンを見つけるのが難しいので東京で“のど自慢専属バンド”を結成する。そして1年間、全国で行われる生放送に出演してもらうことも考えました。しかし、現実的には厳しかったですね。クオリティが求められますから、一流のプロミュージシャンを『のど自慢』のためだけに1年間拘束するとなると、予算だけでも桁違いです」

 ネット上では「バンドをやめてカラオケとは、予算削減のポイントが違う」、「受信料を徴収しているのだから、バンドの人件費は負担できるだろう」といった資金面に注目した批判も目立った。だが中村氏は「確かに予算の問題もありましたが、あくまでも解決すべき多くの課題のひとつにすぎません」と言う。

「様々な問題が複合的に絡みあっていました。例えば、大手のレコード会社が手がけるメジャーな楽曲でも、現在のレコーディングは打ち込みの楽曲が増えています。バンドを存続しようとしてもプロのミュージシャンは減り続けており、なかなかメンバーが見つからない。コロナ対策も重要ですし、出場希望者の皆さんがカラオケ音源を希望しているという現実も大きい。バンド存続のため、ありとあらゆるシミュレーションを行いましたが、やはりカラオケしかないという結論に達したというのが正直なところです」

「セレモニー」問題

 その一方で「何が何でもカラオケ音源しか使わない。生演奏は絶対に行わない」と決めているわけでもないという。

「例えば民謡です。北海道の予選会だと『江差追分』を歌いたいという方は今も相当な数になります。カラオケは民謡の音源も豊富ですが、ひょっとすると存在しないものがあるかもしれません。書類選考の段階で『この民謡はカラオケに音源がないけれど、予選会で歌ってもらおう』と決まったら、尺八と三味線の先生を手配することは充分に考えられます」

 批判的な意見の中で中村氏の印象に強く残ったのが、「なぜ番組でセレモニーを行い、功労の大きなバンドメンバーに感謝を捧げないのか」というネット上の指摘だったという。

「拝読して、『あいたたたた……』と呟きました。いや、全く仰る通りなんです。でもセレモニーを開くとなると、約2カ月間、毎週日曜に“さよなら公演”を放送する必要があります。北海道、東北、中京のバンドはセレモニーを行ったが、九州・沖縄のバンドは割愛するというのは不公平でしょう。しかし、全バンドを対象に日曜の生放送でセレモニーの場面を流すのは現実的ではありません。そこで小田切千アナウンサー(53)と鐘担当の秋山気清(きせい)さんに花束を渡すというアトラクションを、番組放送終了後のステージで行いました。バンドの皆さんにはカメラの回っていない場所で感謝の気持ちを伝えました」

 バンドに人一倍、強い思い入れを持っていたチーフプロデューサーが、バンドに引導を渡す結果になったのは皮肉と言えるかもしれない。ただ、「中村が下した結論なら仕方ない」と言ってくれたバンドメンバーもいたという。

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