NHK「のど自慢」 番組責任者が明かす“予選会の知られざるカラオケ活用法”
カラオケ音源との違い
200組が歌い終わると午後4時を過ぎるという。例えば佐賀県で開催される場合、佐賀放送局のコンテンツセンター長、番組担当のチーフプロデューサー、中村氏、そして拠点局である福岡放送局のエンターテインメント担当のチーフプロデューサーの4人が中心となって合議し、約1時間をかけて18組を選ぶ。
かつては20組が出場するのが一般的だった。中村氏は「ゆくゆくは20組に戻したいと考えている」と言う。ちなみに去年、長崎市で実施された「のど自慢」では19組が選ばれた。
「18組を発表すると、そのままステージに上がってもらいます。明日のスケジュールが空いているかを確認し、問題なければ182組の皆さんにはお帰りいただきます。本番の出演者は、希望があった場合や、番組サイドからの提案により、特にキーの調整を行います。予選会は原曲のキーで歌ってもらっていますが、本番はキーの上げ下げを認めています」
スタッフは18組が歌う18曲の音源データを、カラオケから音楽制作ソフトに移し替える。
「プロのミュージシャンや音響の専門家が、音楽制作ソフトでイントロの短縮を行います。最初にサビが来て、その後に長い本イントロが続くという曲も少なくないので、その場合は本イントロを短くします。アウトプットは会場で流す音とテレビで流れる音の2系統がありますが、会場用は客席に届く音が最適化されるようイコライジングを行っています。カラオケの音源は非常に質が高いのですが、昭和の歌謡曲など作られてから年月が経った音源は、やはり古く聴こえる場合があります。その場合は高、中、下の音域に手を加えます。つまり『のど自慢』で流れる曲は、厳密に言うとカラオケ音源とも異なります。番組のオリジナル音源なのです」
当初は「バンド存続」だった
18組の出場者は、日曜の午前中に何度も練習することができる。特にイントロが短くなっている出場者は、カラオケで歌い慣れている曲とは異なるため、スタッフも入念なリハーサルを心がけているという。そしてバンドからカラオケ音源に変わったことを一番歓迎しているのは出場者のようだ。
「打ち込みが主体の曲でもカラオケなら原曲とほぼ同じという利点だけでなく、バンド時代では比較的問題が少なかった演歌もカラオケ音源が歓迎されています。高齢者で演歌が好きな方にとって、カラオケ音源はCDのアレンジに限りなく近く、何より自分たちが普段カラオケで歌っているのと同じ音源です。批判のご意見もたくさんいただいていますが、『カラオケ賛成です』というお葉書やお手紙もたくさん番組に届いています」
カラオケへの変更を発表する際、中村氏は「かなり批判的な意見が殺到するだろう」と予想していたが、「これほどとは思いませんでした」と言う。特にネット上では「NHKがバンドメンバーを無慈悲にもリストラした」との受け止めが目立った。
「実は私、中学からヘビーメタルやハードロックのバンドを組んでギターを弾き続けてきました。大学ではプロを輩出したジャズ・フュージョン系のサークルに所属し、プロのギタリストを目指していたんです。B.B.クィーンズのレコーディングでメンバーのオーディションに応募したこともありました。合格したら『紅白歌合戦』に出場できた。2005年に紅白の総合演出を担当しましたが、『なんで、あっち側じゃないんだろう』と複雑な心境でした(笑)。だからバンドに対する愛情は誰にも負けません。『のど自慢』のリニューアルも、最初はバンドを継続させようと考えていたんです」
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