「カミラ王妃」誕生に影を落とす「ダイアナ人気」 露骨なイメージアップ戦略に英国人が抱く“複雑な感情”

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「単独公務を報じる英メディア」が増加

 英国王室にとって公務は事実上の「仕事」であり、エリザベス女王が90代とは思えない過密スケジュールをこなしていたのは有名な話だ。その立場を受け継いだチャールズ国王は、2022年の公務数ランキングで2位、カミラ王妃は6位。1位はチャールズ国王の妹であり、最も働く王族としても知られるアン王女である。

 カミラ王妃が6位に入ったのは、チャールズ国王の公務に同伴する機会が多かったこともあるだろう。とはいえ、カミラ王妃の単独公務は数年前から目に見えて増えていた。あるいは「単独公務を報じる英メディア」が増えたともいえる。そこで各社が報じた内容は、公務の概要や当日のファッションなどだった。

 このファッションについての記事には、前例から“学んだ”と思われる特徴がある。人気上位のロイヤルファミリーといえば、ウィリアム皇太子の妻・キャサリン妃。「庶民感覚を失わない3児の母」という魅力的なイメージは、公務の際にファストブランドのアイテムを着用し、さらにそれらを着回すことでも下支えされている。この成功例にならったのか、カミラ王妃の記事でも着回しに触れる内容が散見されるようになった。

 また王族はそれぞれ、文化事業や慈善事業などの後援者(パトロン)となる。関わっている事業の内容もまた、個人のイメージを左右する要素だ。たとえばキャサリン妃は、早期の幼児教育に関する研究や取り組みを支援し、子煩悩な母親イメージを強固にした。

 カミラ王妃の場合は骨粗しょう症やDV・性的虐待、保護犬活動など、そして読書である。コロナ禍で「ステイ・ホーム(外出自粛)」が提唱されるなか、「リーディング・ルーム」と称する期間限定のSNSアカウントで、著者インタビューや自身による朗読などを公開した。

 皇太子夫妻としてのSNSアカウントでも積極的に発信した。ホームパーティーで手作りケーキをふるまう姿や、愛犬を連れて郊外を散歩する姿など、想定イメージは「落ち着いた大人の女性」といったところか。若い頃は“パーティー好きのお嬢さん”だったと報じられたこともあり、「多数の山を越えて落ち着いた」という着地点は意外としっくりくる。

 公務を取材した記事以外にも援護射撃があった。英メディアの有名「王室番」記者(編集者)たちは通常、独自取材と自身の見解を交えた記事で個性を発揮する。数年前からは、そうした記事でも「コーンウォール公爵夫人(以前のカミラ王妃の称号)は頑張っている」といった意見が目立ち始めた。

PRキャンペーンの効果は微妙?

 こうしたPRキャンペーンの存在は、かなり以前から注目されていた。ダイアナ妃の次男・ヘンリー王子も、今年1月に出版した自叙伝『スペア』で、90年代後半から2000年代のPRキャンペーンで巻き添え被害を受けたなどと綴っている。

 当時のPRキャンペーンを主導した人物は明記されていないが、英紙「ガーディアン」は「広く知られている」としてマーク・ボランド氏の名前を挙げた。いわく、カミラ王妃の誕生というチャールズ国王の「譲れない野望」の実現に向け、「細心の注意を払ってその最初の一歩を進めた人物」だ。ダイアナ妃支持の傾向が特に強かった「デイリー・メール」と同じ大衆紙「ザ・サン」の説得は、ボランド氏の任務だったという。

 公的な人物や組織がPRの専門家を雇用することは、よくある話である。ただし「カミラ王妃のPRキャンペーン」はいささか露骨であり、少なくとも現時点では効果が薄いかもしれない。

 マイケル・アシュクロフト氏(アシュクロフト卿)が戴冠式前の数カ月間で実施した好感度調査によると、チャールズ国王は54%、カミラ王妃は39%だった。トップは76%のエリザベス女王、ワースト3は22%のヘンリー王子、18%のメーガン妃、7%のアンドリュー王子である。またこのほかの調査で、カミラ王妃の好感度が爆発的に上がったという結果は見られない。

 一方で、PRキャンペーンを目の当たりにできない他国では、はっきりと否定的な意見を持つ向きもある。米ABCニュースの記者は戴冠式の数日前、アメリカはまだダイアナ妃に対する英国王室の扱いを許しておらず、「恨みを抱いている」と語った。

 それでも、カミラ王妃は「クイーン」になった。しかし、英国民の“微妙なモヤモヤ”が払拭される日は、まだかなり先になりそうである。

デイリー新潮編集部

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