アカデミー賞6部門ノミネート 話題の映画「TAR/ター」を完全制覇するための5つのポイント
(5)ターが誰かから贈られた本をなぜか破り捨てるシーン。
「ここが多くの方にはわかりにくいと思います。あの本は、今世紀前半に活躍したイギリスの女性作家、ヴィタ・サックヴィル=ウェストの『Challenge』初版本です。ヴィタはヴァージニア・ウルフの“恋人”にして、名作『オーランドー』のモデル。イギリスでは同性愛が非合法だった時代の作家です。これを知っておくと、そのあとの劇的展開が腑に落ちるはずです」
そのほか、この映画には、小さな“トリビア”が山ほどあるという。
「アメリカの指揮者、ジェイムズ・レヴァインの男児性愛虐待。東京・渋谷のBunkamura。『猿の惑星』の音楽(J・ゴールドスミス)はヴァレーズのパクリ。バッハは女性に20人もの子供を産ませた。マーラー第5番で、冒頭トランペットを舞台裏で演奏させる……全編がクラシック・ファンなら思わずニヤリとしてしまう情報やシーンでできているといっても過言ではありません」
なお、すでに話題となっている“衝撃”のラストについては、おそらく十人十色の解釈があるだろう。そのあたりも、この映画の魅力といえる。
「結局、本作はアカデミー賞では、ことごとく『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』に持っていかれました。あちらはマルチバース(多元宇宙)世界の話でしたが、考えてみれば本作も、“もしベルリン・フィルの常任が女性だったら”とのマルチバースを描いている。どちらのマルチバースが好みかを観比べるのも一興だと思いますよ」
■映画「TAR/ター」
■5月12日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
■(c)2022 FOCUS FEATURES LLC.
■配給:ギャガ