弾薬持ってこいや! ワグネル創設者とプーチンの“本当の関係” 専門家は「プリゴジンの本音はウクライナ侵攻どころではない」

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囚人だった過去

 5月1日にもプリゴジン氏は自身のSNSに動画を投稿。「攻撃には少なくとも一日に300トンの弾薬が必要だが、我々にはその3分の1も届いていない」、「ワグネルが消滅する運命であるとすれば、それはウクライナ軍やNATO(北大西洋条約機構)の手にあるのではなく、ロシア国内のくだらない官僚のせいだ」(註2)など、批判の矛先はロシア政府にも向けられた。

「プリゴジン氏は4月14日に突然、ウクライナとの停戦を呼びかけました。ロシアが勝利宣言を出して戦争を止めればいいと主張したのです。さらに、ウクライナ軍は5月15日から大規模な反攻を開始し、ロシアに壊滅的な打撃を与えるという警告も発しました」(同・記者)

 ウクライナへの侵攻を命じたのはプーチン大統領だ。プリゴジン氏の発言を額面通りに受け止めれば、大統領を批判しているようにも見える。

 一体、プリゴジン氏とショイグ国防相を筆頭とするロシア軍、そしてプーチン大統領の関係はどうなっているのか。ロシア政治が専門で筑波大学名誉教授の中村逸郎氏に訊いた。

「複雑な人間関係を読み解くには、プリゴジン氏の半生を辿る必要があります。彼は1981年、強盗や詐欺などの罪で12年の懲役刑を宣告され、9年間服役しました。ソ連が崩壊に向かう中、出所したプリゴジン氏は、ホットドッグの販売で成功。その資金で高級レストランの経営に乗り出すと、プーチン大統領の知己を得たのです。そしてオリガルヒの一人として財を成したのですが、それでも不満を抱えて日々を過ごしていました」

アフリカ利権の獲得

“プーチンのシェフ”と呼ばれても満足しなかったのは、エネルギー・資源分野のオリガルヒが成した財は桁違いだったからだ。

 石油取引で億万長者になったロマン・アブラモヴィッチ氏(56)の総資産は1兆円とも言われる。彼我の差は大きく、そのためプリゴジン氏は鬱屈していたのだ。

「2012年、プリゴジン氏は軍に給食を提供するサービスに参入を果たします。これで軍とパイプが生まれ、14年にワグネルを創立しました。この年、ウクライナでは親ロ政権に対するデモが激化し、政権は退陣を余儀なくされます。危機感を抱いたプーチン大統領はクリミア半島に軍事侵攻を行い、一方的に独立を宣言させました。この際、ワグネルはロシア軍のサポートや住民投票の実施など、様々な“汚れ仕事”で成果を上げ、プーチン大統領の高い評価を勝ち取ったのです」(同・中村氏)

 プリゴジン氏の活躍をプーチン大統領は喜び、“褒美”を用意した。ロシアと関係の深いアフリカ諸国での利権を与えたのだ。

「プーチン大統領から利権を与えられ、ワグネルはリビアやマリ共和国、中央アフリカ共和国といった国々で、軍事訓練、武器供与、要人保護、対テロ対策などの契約を結ぶことに成功しました。中でもワグネルを潤わせたのが、金を巡る利権です。例えば、ワグネルはスーダンで金の採掘権を獲得し、巨額の利益を手にしています」(同・中村氏)

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