寝た子を起こす謝罪、第3者弁済のまやかし…岸田外交は日韓に時限爆弾を残した

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歴史カードが武器の伝統派

――大統領がこれほど明白に「謝罪を求めない」と言っているのに、韓国政府はなぜ、日本に謝罪を求め続けるのでしょうか。

鈴置:韓国の対日外交の基本戦略は「何でもいいから歴史問題で日本に文句を付け、謝罪させて交渉で優位に立つ」です。歴史カードを唯一の武器として愛用してきた伝統的な外交関係者にすれば、謝罪要求の放棄などとんでもないことです。ふらりと外交の世界に紛れ込み、5年後には去って行く大統領は彼らにとって異邦人です。

 外交の司令塔である大統領室の趙太庸(チョ・テヨン)国家安保室長は職業外交官出身。朴振(パク・ジン)外交部長官は今は国会議員ですが、もともと外交官です。

 2人とも表立っては「謝罪」とは言いません。しかし「日本はそろそろ韓国の利益になることをすべきだ」(趙太庸室長)、「日本の誠意ある呼応によりコップは満たされるだろう」(朴振長官)などと、5月7日の首脳会談を前に謝罪を催促したのです。

 水面下での謝罪要求は一見、大統領に忠誠を誓っているように見えますが、そうとは限りません。岸田首相が謝罪に踏み切ったら「謝罪は不要」と語っていた尹錫悦大統領の「読みの甘さ」が際立ってしまいます。多くの国民も大統領に失望するでしょう。今やそうなりつつあります。

 外交当局の面従腹背は日本でも似たようなところがあります。安倍晋三元首相も就任当初はそれに悩み「総理を長くやれば(人事権を発揮できるようになれば)外務省も言うことを聞くようになる」と周辺に語っていたそうです。

各紙社説も「謝罪が不十分」

――大統領の言説だけではなく、伝統的な外交専門家の動きも見逃せないということですね。

鈴置:そう思います。世論――5月8日の各紙の社説も「岸田首相の謝罪は不十分だ」との声が大勢です。ハンギョレの見出しは「歴史問題に対する明確な謝罪なしに『未来』」だけ強調した韓日会談」(日本語版)。

 反・尹錫悦の左派系紙だから当然でありますが、保守系紙の東亜日報の見出しも「尹・岸田、『信頼』を越える過去の『和解』なしに未来へ進むことは難しい」(日本語版)と否定的でした。

――残りの保守系紙の社説は?

鈴置:朝鮮日報と中央日報の社説は、会談自体は評価しました。しかし、岸田首相の明確な謝罪がなかったことには反発しました。

 朝鮮日報の「岸田答礼訪問でシャトル外交復元、関係改善カードも切れ」(韓国語版)は、岸田首相の発言に関し「『謝罪と反省』には言及せず、強い遺憾を表明したが、韓国社会が望むほどのものではなかった」と不満を表明しました。

 中央日報の「韓日シャトル外交復元、真の未来協力の歩みになるように」(日本語版)も「初めから満足な結果を得ることはできないものだ」としつつも、結論部分で「被害者の痛みもなだめるなど完全かつ検証可能で後戻りできない関係復元につながるよう願う」と、さらなる謝罪を期待しました。

 韓国人は時々、政府に日本を小突いてもらい、快哉を叫んできました。そのうっ憤晴らしが突然なくなるのには抵抗があるのです。「反日を続けると国が危ない」と考える新聞人がいても、読者のことを考えると「謝罪要求はやめよう」とは書けないのです。

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