寝た子を起こす謝罪、第3者弁済のまやかし…岸田外交は日韓に時限爆弾を残した
日韓の間でシャトル外交が復活した。両国のメディアは急ピッチの関係改善を謳いあげる。だが、関係崩壊のリスクも密やかに増していると韓国観察者の鈴置高史氏は読む。
大人と子供の関係に戻る
――5月7日、ソウルで日韓首脳会談が開かれました。
鈴置:安倍晋三元首相が切り開いた「大人同士の日韓関係」を、岸田文雄首相が昔ながらの「大人と子供の関係」に戻してしまいました。また、謝罪したからです。言うことを聞いてもらった韓国は、日本に駄々をこねる国にさらに退行する可能性が高い。
会談後の共同記者会見の冒頭スピーチで、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領を前に岸田首相は以下のように述べました。首相官邸の発表資料から引用します。
・3月に、尹大統領が訪日された際、私は、1998年10月に発表された、日韓共同宣言を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいると明確に申し上げました。この政府の立場は今後も揺るぎません。
・尹大統領の御決断により、3月6日に発表された措置に関する韓国政府による取組が進む中で、多くの方々が過去のつらい記憶を忘れずとも、未来のために心を開いてくださったことに胸を打たれました。私自身、当時、厳しい環境のもとで多数の方々が大変苦しい、そして悲しい思いをされたことに心が痛む思いです。
聯合ニュースの「102分間の『韓日対坐』…福島視察・供給網共助・安保協力で合意」(5月7日、韓国語版)は「日本に譲歩させた」と小躍りしました。
・去る3月の首脳会談当時「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体的に継承している」という間接的・原則的な表現だけが繰り返されたのと比べ、進展したと評価できる。
安倍元首相が戦後70年談話で確立した「もう、韓国にヘコヘコ謝らない」との大原則。3月の首脳会談では岸田首相も見習うかに見えたのですが、結局、ヘナヘナと腰砕けになりました。
韓国の政権が代わるたびに日本が謝罪する、という奇妙な慣例が復活する可能性が強い。「慣例をキシダが守った」以上、韓国のこれからの政権も謝罪無しでは国民から「日本に負けた」と見なされてしまうのです。
あくまで私的発言……で通るのか
――岸田首相はなぜ、安倍元首相の遺志を踏みにじったのでしょうか。
鈴置:本人は踏みにじったつもりはないでしょう。「あれは私的な発言」と思っているはずです。岸田首相のスピーチの後、韓国の記者から「心が痛む」部分に関し質問がありました。
謝罪に焦点を当てた聯合ニュースの記事「[韓日首脳会談]岸田、私見前提で徴用に遺憾を表明…公式の謝罪無し」(5月7日、韓国語版、動画は韓国語と日本語)の40分38秒以降です。
岸田首相はそれに対する答弁(44分43秒から)で、「私自身の思いを率直に語らせていただきました」と説明しました。あくまで個人の感想を述べたものであり、日本政府の謝罪ではないと示唆したのです。聯合ニュースのこの記事も「私見前提で遺憾表明」との見出しを付けました。
――私的発言なら謝罪したことにはならない?
鈴置:1国の首相が公の場で発言したことですから、「私的」ということはあり得ません。韓国はいずれ――日本に謝罪させたくなった時に「キシダは謝ったじゃないか。なぜ、繰り返せないのか」と言い出すでしょう。今は多くのメディアが「公式の謝罪無し」と岸田首相の説明通りに報じていますが。
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