【叡王戦第3局】菅井八段に逆転勝ちで藤井六冠が防衛に王手 「千日手」の回避で明暗
回避された千日手
藤井が1分将棋に入ったあたりで、AI評価値はきっちり50%ずつとなった。しかし、ABEMAで解説をしていた門倉啓太五段(35)は「評価値は今の状況ではなく、千日手を前提とした値ですね」と解説していた。これはどういうことか。
将棋では基本的に、同じ局面が4度繰り返されれば千日手となり、勝負は無効、先手と後手を入れ代えてその場で指し直しになる。また、王手をかけ続けて同一局面が4度続いた場合は、王手をかけている側が負けになるため差し手を変えなくてはならない。
玉を盤面の片隅に据えて金銀桂香でがっちり守る穴熊は、遠方から角や飛車で王手をかけることがまずできないので、接近して駒を打って守り駒を1枚ずつ引っ剥がしてゆく。守る側は相手が打った駒を取り返し、それを自陣に貼って 守る。これが繰り返されるといたちごっこの堂々めぐりとなり、千日手になりやすい。
本局では終盤まで「千日手含み」の攻防が続き、解説陣はしきりに「2人は千日手の打開を探っている」と話していた。もちろん、明らかに劣勢が挽回できないような時は、巧みに千日手に誘導して指し直しにすることもあるが、今回は結果的に千日手にはならなかった。
藤井は千日手を回避して反撃に転じ、99手目に「66同飛車」で飛車を捨てた。しかし、これで形勢が悪くなる。そこから菅井が優勢になり、一時は評価値も70~80%にアップしていた。
しかし、1分将棋に入った菅井が「9五歩」で藤井の「9五の端歩」を突いたあたりから劣勢になる。やはりトップ棋士も、1分将棋では判断を誤ることがあるのだ。局後、菅井は対局後のインタビューでは「千日手にすべきだった」との反省の弁を口にしたが、感想戦では「一挙に畳みかけるべきだったんですかね」などと話すものの口数は少なかった。
藤井が見せた「守りの妙」
この日のABEMAの解説は、「振り飛車」で一世を風靡した藤井猛九段(52)と、その「藤井先生の将棋に魅せられてプロになった」という振り飛車党の門倉五段が交代で行った。藤井猛九段は「今日は解説というより、振り飛車棋士ならこうする、という感じで話します」などとひとしきり振り飛車の魅力を語っていた。
菅井は、藤井猛九段の予想とは異なる手を指して形勢を悪くしていった印象だった。藤井猛九段が「次は『7七銀打ち』、もうここで行くしかない」などと話すも、菅井は異なる手を選ぶ。また、「金は逃げないでしょう」と言うと、菅井は金を逃す。
さすがは竜王3期に輝いた藤井猛九段。囲碁由来の「岡目八目」という言葉があるが、「藤井猛九段が挑戦すれば藤井六冠に勝つのでは」とすら思ってしまった。
一方の藤井は、攻撃を続けるかと思うと、さっと自陣に金を打って守りを固めた。最近の藤井によく見られる「守りの妙」だが、白眉だったのは117手目に敵陣に放った「2二角」だ。相手玉からも遠い場所なので悠長な手に見えたが、これが最後まで守りに効いていた。
終盤、どちらの玉も詰みそうで詰まなかった理由は、この藤井の「2二角」、一方の菅井も「1九馬」という、はるか遠方にいる角(馬)が自玉を守っていたからだ。菅井が76手目に指した「2八」の角は、攻撃に使う「1九」の香車を取って角成(馬)とする目的もあったが、藤井が打ち込んだ「2二」の角は、「5五」へ引いて攻撃に参加させる余裕はないように見え、普通は指さないだろう。
1分将棋が延々と続いたが、藤井の163手目「8三金打ち」見て菅井は投了した。
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