話題のChatGPTに「慰安婦問題」「原爆投下」について聞いてみた

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無条件降伏という間違い

 最後に、これもまた歴史認識でもっとも重要といえる「日本は無条件降伏したのか」という問いだ。これに対してAIはあっさりと次のように答える。

――はい、日本は1945年8月15日に無条件降伏しました。これにより、第二次世界大戦は正式に終結しました。

 これを「正解」と思っている日本人も多いのだが、以下に説明する通り、間違っている。

 日本はポツダム宣言、すなわち「日本の降伏条件を定めた公告」を受け入れて降伏したのだから、無条件降伏ではない。

 ポツダム宣言の第5条は次のようになっている。

5.われわれの条件は以下の通り。条件からの逸脱はないものとする。代替条件はない。遅延も一切認めない。

「われわれの条件は以下の通り」となっており、実際以降、条件が提示されているのだから、やはり条件付き降伏だったといえる。ではなぜAIや多くの日本人が無条件降伏だと信じているのかといえば、以下の条項を誤読しているからだ。

13.我々は日本政府に対し日本軍の無条件降伏の宣言を要求する。

 つまり、「無条件降伏」の対象はあくまでも「日本軍」であって、「日本政府」ではないのだ。要求を突き付けたのは日本政府に対してだが、無条件降伏の対象は日本軍だ。この違いは大きい。軍隊が降伏するとき無条件降伏は当然のことだ。だが、政府や国の無条件降伏は意味がまったく違ってくる。

 日本軍に無条件降伏を求めたのなら、日本軍がそのようにして解散してしまえば、それで終わりだ。日本政府も日本人も自由に権利を主張できる。

 だが、日本政府が無条件降伏したとなれば、日本軍が解散したあとも、日本政府は連合国の言いなりにならなければならないということになる。実際、現在中国やロシアは、尖閣諸島や千島列島において、日本政府に対してそれに近い態度をとっているのだが、これはポツダム宣言の内容の主旨に反しているので、彼らが間違っているのだ。

 もちろんAIに党派性があるわけではなく、インプットするデータが、日本の自虐的メディアのこれまでの報道などのものが主なので、こうなるのだと思われる。

誤った歴史認識を植え付けられる可能性

 こうした例は他にも多数ある。

 ネット上の記事や記述ならば、デマやバイアスがあるかもしれないと私たちは警戒してよむ。しかし、こちらの質問に答える形でAIが作った文を提示してくると、過去の一般情報をもとにしたものであることを忘れて、あたかもそれが客観的事実であるかのように錯覚してしまう人もあらわれるだろう。

 ウィキペディアならば、論争的なテーマについては、その両方の意見を併記していることが多いが、このAIは流暢な日本語で「もっともらしい」答えを示す。その分、信じやすいというリスクがあるように感じる。

 現代史の知識が余りない人、とくに若者は、これを鵜呑みにして、誤った歴史認識を植え付けられることになる。これによって、誤った歴史認識が永続化されてしまう危険性が大きいのではないか。

 AIは学習を続け、進化を続けるというから、間違いを改める可能性もある。しかし、ここでご紹介したような間違いのベースになっているのは、自虐的な歴史観に基づいた、過去の膨大な記述や報道ではないかと思われる。そうなると、そちらを正しいデータとしてAIが採用し続ける可能性もまた十分あるのではないか。

 これはこのまま放置できない問題だ。

有馬哲夫(ありまてつお)
1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学社会科学総合学術院教授(公文書研究)。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書に『原発・正力・CIA』『日本人はなぜ自虐的になったのか』など。

デイリー新潮編集部

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