法哲学者がコロナ禍で訪ねた全国の「夜の街」 「根も葉もない噂に苦しめられた」スナック経営者の生々し過ぎる声の数々

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スナック廃業問題と日本国憲法

「実は、日本にスナックが誕生したのは1964年、前回の東京五輪の年なんです。そこで2度目の東京五輪が開催されることになった2020年を機に、その間の日本のスナック文化の変遷を振り返る研究を予定していました」

 しかし、五輪はコロナ禍で1年延期される。

「そのうえ飲食業への営業時短や休業要請が出て、スナック研究どころではなくなってしまった。しかし、これらの規制はいったい何が根拠なのか。コロナ禍が本格的になった2020年春以降の1年余で、少なく見積もっても全国で8000軒以上のスナックが廃業に追い込まれました。なぜ中小事業者がこんな目にあわなければならないのか。彼らに“営業の自由”はないのか。20時で強制的に閉店させられたり、換気を徹底しているパチンコ屋がダメな理由は何なのか。あまりに説明のつかないことばかりでした」

「法哲学」とは「法とは何か」を考える学問だという。

「そんな学問は普段は役に立ちません。数学の問題を解くときに『数とは何か?』なんていちいち考えないのと同じです。ところがこのコロナ禍で、憲法22条(居住、移転・職業選択の自由)から導出され確立しているはずの権利(営業の自由)についての議論がまったくないまま、日本中が規制の要請に従った。これこそ同調圧力ではないか。これは法哲学者が初めて直面した事態であり、いろいろと考えさせられることになりました」

 谷口教授はその疑問を『「夜の街」の憲法論』と題する論考にまとめ、雑誌「Voice」(PHP研究所)の2021年7月号に発表した(本書の終章に再録)。

「雑誌発表時はそれほどでもなかったのですが、『飲食店は自粛要請に従うべきなのか』の副題を付けてウェブ上で公開したら、爆発的な反響を呼びました。私がいままでに発表した文章で、これほど多くの人に読まれたものはありません。それこそ一日中、コメントやリツイートが滝のように流れていく状況でした」

 そこで谷口教授は、この論考への反響を実際に確かめてみようと、コロナ禍を体験した全国の夜の街を訪ね歩くことにする。

「2021年の10月から札幌・すすきのを皮切りに、ほぼ1年をかけて全国15カ所の夜の街を訪ねました。たまたま2022年度はサバティカル(研究休暇)で時間的に余裕があったのと、再びサントリー文化財団の研究助成を得られたことも幸いしました」

 その結果をまとめたのが本書だったのだ。

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