豊島“新区長”の誕生でヨドバシ問題はどうなる? 前区長がこだわった池袋LRT構想とは

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単なる思いつきの構想ではなく…

 高野前区長が取り組んできた「西武百貨店からグリーン大通りにかけての歩けるまちづくり」は、区長就任直後の2000年頃から進められてきた。

 その頃、筆者は都電荒川線の取材をしていたが、その過程で豊島区が進めていた池袋LRT構想を耳にした。そこから豊島区そのものを取材するようになり、高野前区長が進めてきた「西武百貨店からグリーン大通りにかけての歩けるまちづくり」を知ることになる。その「西武百貨店からグリーン大通りにかけての歩けるまちづくり」で要になるのが、池袋LRT構想だった。

 池袋LRT構想とは、一体どんな政策なのか? それを知るために東池袋の商店街関係者を訪ね歩き、そこから豊島区の担当部署や地域活性化に取り組むNPO団体などにも話を聞いて回った。

 鉄道に詳しくない読者に向けてLRT(=Light Rail Transit)を簡単に説明すれば、LRTとは新型の路面電車を走らせて街を活性化させるまちづくりの概念を指す。

 路面電車と聞くと、昭和を思い浮かべる人も少なくないだろう。しかし、欧米ではLRT推進が叫ばれ、むしろ導入が相次いでいる。

 国内に目を転じても、今年8月には栃木県宇都宮市で宇都宮ライトレールと命名された新型路面電車が運行を開始する。このように、路面電車は近未来型の公共交通へと姿を変えているのだ。

 池袋LRT構想と同時に東池袋の再開発事業も始まろうとしていた。池袋LRT構想は再開発と連動した計画でもあり、豊島区は池袋駅東口から真っ直ぐに延びるグリーン大通りに路面電車を走らせることを想定していた。なぜ、高野前区長は池袋LRT構想を打ち出したのか?

 高野前区長は、1945年に豊島区西池袋で生まれた。以降、ずっと池袋界隈で育っている。昭和20年代から30年代は都電全盛期で、東京23区内には都電が網の目のように走っていた。それを見て育ったから、路面電車への郷愁があったのか? 当初、筆者はそう思っていた。

 しかし、池袋駅を発着する都電は17系統の一路線しかない。高野区長は都電にそれほどの強い思いを抱いていなかったようだ。

 高野前区長がLRTに魅せられたのは、就任後に視察でドイツのライプツィヒを訪れたことがきっかけだった。ライプツィヒでは路面電車が主要交通として利用されており、試しに乗車すると快適だった。その利便性を実感してから路面電車に対する考えが変わっていく。

 これだけを見ると、池袋LRT構想は高野前区長の単なる思いつきではないか? という気もしてくるが、池袋LRT構想は鉄道専門誌だけではなく、都市計画系の学術誌にも取り上げられなど、単なる区長の思いつきだけの構想ではなかった。

 しかし、路面電車を復活させるという話は簡単に世間の支持を得ない。池袋のある豊島区には、都電荒川線という路面電車が走っている。荒川線は都電唯一の生き残りで、旅雑誌やタウン誌などで「沿線風景は下町情緒に溢れている」とか「昔ながらのチンチン電車が走っている」と紹介されることは珍しくない。ゆえに、池袋LRTは都電を復活させる計画と見られてしまい、「今さらチンチン電車を走らせる時代ではない」と賛意を得ることは叶わなかった。

街のイメージに合わないと「おねがい」も

 池袋LRT構想が停滞する間も、東池袋の再開発は着々と進んだ。事業区域には新たな豊島区庁舎も竣工していく。

 池袋LRT構想は幻になりつつあるが、他方で豊島区は2019年から池袋の街を周遊するコミュニティバス「IKEBUS」の運行を開始。IKEBUSの最高時速は19キロメートルで、単なる移動手段ではない。人とまちをつなぐことを主眼に据え、“人にやさしい 環境にやさしい グリーンスローモビリティ”を謳い文句にしている。

 昨今、ウォーカブルシティ(=歩きやすいまちづくり)を指向する市町村は増えている。高際新区長も「ウォーカブルシティの推進」を選挙公約に掲げた。そうしたことを踏まえれば、高野前区長が打ち出した池袋LRT構想や運行を実現させたIKEBUSは時代を先取りした交通政策だった。

 では、高野前区長が目指した歩きやすいまちづくりを目指すことと西武池袋本店の低層階にヨドバシカメラが入居することと、どんな関係があるのか? 

 池袋LRTを盛んに推進していた当時、豊島区は「池袋駅東口駅前広場・グリーン大通り沿道景観形成特別地区」を策定し、池袋駅東口から真っ直ぐ延びるグリーン大通りのまちづくりに関しても指針をまとめている。

 同指針では、「歩行者に圧迫感や威圧感を与えないように努める」「壁面の位置などの工夫により、敷地内に店舗等のあふれ出しの空間を確保するよう努める」「駅前広場あるいはグリーン大通りに建築物の顔が向くよう計画する」「駅前広場に面して歩道と一体となったオープンスペースの確保に努める」といった文言が盛り込まれている。

 同指針に基づいた具体例には、池袋東口からグリーン大通りにかけての店舗構成が挙げられる。グリーン大通りに面したビルの多くは、一階をカフェや飲食店にしている。

 実は、このグリーン大通りに面したビル一階の店舗に関して、事前に出店情報をつかんだ豊島区が街のイメージに合わないという理由で「考え直してもらえないか?」といったお願いをしていたことがある。逆に、イメージに合うような店舗を誘致していたこともある。

 とはいえ、行政が企業の経済活動を決めることはできない。豊島区のお願いを受け入れない店(企業)もあった。

 それでも、豊島区は「とにかく店が並べば、街がにぎやかになる。経済的に潤う」という安易な考え方をしなかった。周到にまちづくり計画を練り、イメージに合わないような店には「まずは話し合いをしてみる」という姿勢を貫き、面倒な交渉事にも時間と労力を割いた。

 ここまで説明すれば、なぜビックカメラやヤマダデンキはよくてヨドバシカメラがダメなのかを理解できるだろう。ヨドバシカメラがNGなのではない。「西武池袋本店の低層階にヨドバシが入ること」がNGなのだ。

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