欧米が規制強化、中露によるサイバーテロも懸念 ChatGPTが抱える最大のリスクとは?
われわれは今、長い人類の歴史における分岐点に立っているのかもしれない。ネット空間に突如として現れた「文明の利器」は文字通りあまりに鋭利で、今までにない利便性を備える一方、使い方を誤れば人類を滅亡へと導く諸刃の剣。その正体は果たして……。
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人工知能(AI)は「核兵器に匹敵する発明」だとして、世界中で研究開発や利用の停止・規制を求める声が相次いでいる。
斯界の第一人者で「AI研究の巨匠」と呼ばれる、カナダの研究機関「モントリオール学習アルゴリズム研究所」のヨシュア・ベンジオ教授は、毎日新聞(4月11日付朝刊)によるインタビューの中で、〈AIが政府や企業などに悪用されることで人類を脅かす「核兵器」のような存在にもなり得る〉とし、規制について国際的な協調の必要を訴えた。
記事の念頭にあるのは、昨年11月末に全世界に向けて発表されて以降、わずか2カ月で月の利用者が1億人を突破した対話型AI「ChatGPT」(以下、「チャットGPT」)の爆発的な普及と開発の進展だ。
これほどまでに短期間で世界中の人々に受け入れられた最大の要因は、老若男女問わず「誰でも使える」点だろう。実際、PCやスマホから質問を入力すれば、どんな分野についても、まるで人間が答えているかのように錯覚するほど、自然な文章で回答してくれる。“夢の道具”としてもてはやされる一方、後述する数々の問題点が指摘され、多方面から批判され始めているのもまた事実である。
開発したのは米・オープンAI社で、2015年に設立された新興企業。そのトップを務めるサム・アルトマンCEOが「チャットGPT」を発表して以降、批判をかわすように初めて海外へと足を伸ばした先は、なんと日本だった。
各国で規制の波が
「チャットGPT」を世に送り出したアルトマンCEOは、4月10日、首相官邸で岸田文雄総理と面会し、自社の研究開発拠点を日本に設けることを検討していると明かしたのだった。
マイクロソフト元会長のビル・ゲイツ氏はブログで、こうした強力なAIについて肯定的な見解を示したが、世界の目は厳しさを増すばかりである。
3月31日、イタリア当局は「チャットGPT」が不正に利用者の個人情報を収集しているとした報告を受け、使用を一時禁止に。フランスやドイツ、アメリカまでもが規制を検討し始めて、各国による“AI包囲網”は着実に作られつつある。
それだけではない。アルトマンCEOらとともにオープンAIを創立しながらも離反したイーロン・マスク氏が、“強力なAIの半年間の研究開発停止”を求める署名運動に賛同したのだ。専門家らの署名は2万5千筆以上集まり、このまま野放図に利用されていけば、いずれ人類が築いてきた社会的な規範や制度を破壊しかねないリスクがあると警告している。
思考や創造をAIに委ねる現象は、世界中の大学で顕著に起き、対話型AIを悪用してレポートを作成する学生が続出。スタンフォード大では約2割の学生が試験や課題に利用し問題となった。日本でも東大や上智大などが安易な利用に注意を呼び掛けている。
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