YMOの3人を生んだ家庭環境 細野晴臣と坂本龍一、高橋幸宏の意外な違い

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「まともに顔を見たことがない」父親

 先にあげた野間宏『真空地帯』のほか、三島由紀夫『仮面の告白』、小田実『何でも見てやろう』、高橋和巳『悲の器』……どれも戦後文学史を語るうえで欠かせない名作だ。これらを手がけた編集者が、河出書房(現・河出書房新社)の坂本一亀(1921~2002)である。坂本龍一は、一亀の長男として、1952(昭和27)年、東京・中野に生まれた。龍一が語る父の肖像は、ほとんど「こわかった」に尽きる。

〈高校ぐらいになるまではまともに顔を見たことがなかった。(略)顔を見ても、こわかったからまともに話せなかった〉(坂本龍一『Seldom-illegal : 時には、違法』角川文庫/引用は、田邊園子『伝説の編集者 坂本一亀とその時代』河出文庫より)

〈父は仕事が忙しくて、1カ月に1度顔を合わせるかどうか、という感じでした。そして家にいればいたでいつも怒鳴っている。(略)ぼくは父に話しかけたこともなかった。初めて目と目を合わせたのが、高校3年ぐらいのときじゃないかな〉(坂本龍一『音楽は自由にする』新潮文庫より)

 幼少時より音楽教室に通い、ピアノや作曲を習い、中学になってベートーヴェンやドビュッシーに魅せられるようになる。だが、「まともに話せなかった」父からも、それなりに影響を受けていた。

〈家に来た作家でよく憶えているのは、小田実と高橋和巳。小学校のときからよく来ていた。(略)あと、電話なんかでカッコいいなと思っていたのは、埴谷雄高と椎名麟三と大岡昇平。(略)水上勉さんに、水上! なんだ、お前のあの作品は! とか言って、小説書きなおせ! とか怒鳴ったりしてね(笑)〉(前出・河出文庫より)

〈家にはいつも本がたくさんあって、本の名前や著者の名前は小さいころからけっこう頭に入っていました。(略)小学6年のとき、国語の授業で「好きな言葉を挙げなさい」と言われて、「美は乱調にあり」なんて答えたことがあります。先生がびっくりして「なんでそんなことを知ってるんだ」って〉(前出・新潮文庫より)

 中学時代は、デカルト『方法序説』、バタイユ『マダム・エドワルダ』『眼球譚』、レア―ジュ『O嬢の物語』、バロウズ『裸のランチ』などを読んだ。

〈後になって幸宏くんや細野さんに話を聞いたら、ぼくとは全然違う。中学のころはもう青山やら自由が丘やらで遊んでいて、バンドを始めたり、パーティーをやったり、誰かの別荘に行ったり。世代はぼくと同じなのに、彼らは映画のような10代を送っていたようで、ずいぶん違うなあと愕然としました〉(前出・新潮文庫より)

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