ソフトバンク、4軍制の次は「ユース世代」へ…王貞治会長の肝いり「ホークス・メソッド」とは一体何なのか?

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「プロ・アマの壁」

 現在、野球界はいわゆる「プロ・アマの壁」が存在し、高校、大学生をプロの監督、コーチ、選手が直接教えることはご法度だ。指導の際には既定の講習を受けた上で「アマ資格」を回復しなければならず、日米通算4367安打を放ったあのイチローでさえも、高校生の指導にあたるために資格回復の講座を受けている。

 もちろん過去には、アマ側の好選手を高額な契約金で強引に引き抜いたプロ球団があり、有力な大学生選手に「栄養費」と称して資金援助をしていたことが発覚した複数球団のオーナーたちが辞任に追い込まれたこともあった。

 また逆に、アマ側でも進学やプロに進む際、選手と受け入れ先との間に入る「ブローカー」として暗躍、そこに金品や報酬が発生したケースもあったという。こういった「負の連鎖」を断ち切るための“壁”であり、野球界の歴史の中で、今なお、不正や疑わしい行為を防ぐための、いわば一定の歯止めになっている意義はある。

 それでも、昨今の少子高齢化、スポーツや余暇の多様化に伴い、野球も「選択肢の一つ」となり、昭和のように、運動神経がずば抜けた男子は、もれなく野球部に入部する、といった時代ではない。

 また、公立中学校の運動部における休日の指導が、民間クラブなどの校外に託される「部活の外部化」が進められている。こうした場合、野球部も当然ながら、その対象になる。その際、例えばプロ野球球団が地域に作った「アカデミー」の中に、その活動をいったん“吸収”し、プロのコーチと学校の先生がタッグを組んで指導していくような時代も、遠からず訪れる可能性がある。

プロとアマの一体化を見越した“次なるモデル”

 プロ、アマが一体になった「野球クラブ」で、一貫した指導方針が貫かれている。そうした時に、共通の「メソッド」や「教本」の存在は、それこそ不可欠なものにもなってくる。

「『ホークス』という名前のついたスクールに来ていただくお子さん、保護者の方は、ホークスならではの指導を期待している。それは、ホークスのOBが単に指導をするということだけでホークスらしさを出すということだけではない。ホークスで大事にしていることはどうだ、というのを今回はまとめて、それに則って指導してもらうということの、スタートの日でもあります」

必然的に、プロとアマの『壁』が崩れる、いや、取っ払わなければならない日が、必ずやって来る。

 だからこそ、三笠GMは慎重に言葉を選んだ。

「プロ野球がそういうところに進出してくる、みたいなことに対して、必ずしもプラスだけに考えない方もいらっしゃる。今までアマチュアで、いろいろなご指導でご尽力されてきた方がたくさんいらっしゃる中で、そこらへんを僕らが侵食していきたいと思っているわけではない。野球人口がどんどん減っている中で、野球を盛り上げていく、共存共栄でやっていく中で、プロ野球球団ができることをやっていくことが大事。その中の一つなんです。4軍まで広げたんで、次はこうやって、ユース世代にアプローチをしていくという順番で事が進んでいったような感じです」

 このソフトバンクの描く「未来への青写真」は、少子高齢化という社会問題とリンクする形での「野球人口の減少」が見込まれる未来へ向け、プロとアマの一体化を見越した“次なるモデル”ともいえるだろう。だからこそ「ホークス・メソッド」の策定と、そこに込められた意義は、実に大きいのだ。

喜瀬雅則(きせ・まさのり)
1967年、神戸市生まれ。スポーツライター。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当として阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の各担当を歴任。産経夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。産経新聞社退社後の2017年8月からは、業務委託契約を結ぶ西日本新聞社を中心にプロ野球界の取材を続けている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)、「不登校からメジャーへ」(光文社新書)、「ホークス3軍はなぜ成功したのか」(光文社新書)、「稼ぐ!プロ野球」(PHPビジネス新書)、「オリックスはなぜ優勝できたのか 苦闘と変革の25年」(光文社新書)、「阪神タイガースはなんで優勝でけへんのや?」(光文社新書)

デイリー新潮編集部

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