ソフトバンク、4軍制の次は「ユース世代」へ…王貞治会長の肝いり「ホークス・メソッド」とは一体何なのか?
“クセを直す”よりも“長所を伸ばす”
「日本的な今までのコーチは、直す、直す、直すなんだよ。でも直すんじゃないんだ。伸ばす、伸ばす、伸ばす。教える方がそう思わないとダメだよね。僕はずっと言っているんだけど、クセを直すというのは難しい。むしろ、長所を伸ばすっていう風にやった方が結果的には近道なんじゃないかと思うんだ、上達のね」
この“王イズム”こそが、ソフトバンクの育成システムと、その拡大方針には、大きく反映されている。11年から本格スタートした「3軍制」では、その1期生でもある千賀滉大(10年育成ドラフト4位、現ニューヨーク・メッツ)、牧原大成(同5位)、甲斐拓也(同6位)の3人が、揃って主力選手となり、3人とも侍ジャパンのメンバー入りも果たしている。
さらに、16年からは、福岡県筑後市のファーム施設が稼働を始めた。本拠地の福岡PayPayドームと同じ両翼100メートル、中堅122メートルの球場を2つ備え、室内練習場には60メートル四方の内野フィールド、打撃練習用に4レーン、投球練習用にも6レーンが確保できる。選手寮は地上3階建て、44室だったものを、4軍制で育成選手が増えたことで増築中。この選手寮と室内練習場がつながっており、それこそ24時間いつでも練習が可能な環境でもある。
この一大拠点が完成した後にも、20年の盗塁王に輝いた周東佑京(17年育成ドラフト2位)ら、育成からタイトルホルダーとなり、日本代表へ駆け上がった逸材たちが育っている。
また「4軍制」へと拡大した23年は、支配下、育成の総勢121選手という、他球団を圧倒する陣容を敷いているのも、この充実した育成施設によって、選手数が多くても、それぞれがきっちりと練習できるだけの環境が整っているのだ。
さらに、千賀なら「お化けフォーク」、甲斐なら強肩の「甲斐キャノン」、周東なら「俊足」といった「一芸を重視するところを、近年のホークスはとても大事にしている」と三笠GM。「直すよりも伸ばす」と王会長も強調したように「弱点をつぶすより、長所を伸ばすこと」(三笠GM)が“ホークス・メソッドの根幹”でもある。
「ユース世代からの縦のつながりを作っていくこと」
そこには、チームの強化という大命題ともに、少子高齢化とスポーツの多様化による「野球人口の減少」という、近い将来に予測される「野球界の危機」への対策としての狙いもあるという。
「他のスポーツ、他の習い事と比べても(野球が)選ばれない時代と言うんですか、野球はナンバーワンスポーツだから、とりあえず野球をやろうという時代では全くありません。野球をやる人はどんどん少なくなるということを考えないと、という問題意識があります」
三笠GMの指摘は、球団の共通認識でもある。そこで、今回策定された「ビジョン」を足がかりとして、ソフトバンクが視野に入れているのは「ユース世代からの縦のつながりを作っていくこと」(三笠GM)だという。
「4軍制というのは、プロで通用する世代の『横』にどのくらい広げるかという話。今、プロスポーツの中で、もう一つ大きなサッカーが取り組んでいることは、ユース世代からの『縦』のつながりを作っていくこと、というようなことだと考えます。僕らとしてはそのアプローチとして、4軍制という横の広がりだけでなく、年代別の縦のつながりとして、どういうものが共通であって、どういうものがホークスとしてアプローチができるかというようなことで考えて、実行していることの一つがこれなんです」
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