「鬼滅の刃」「スラムダンク」「名探偵コナン」… 実写を尻目にメガヒットが続く「劇場アニメ」知られざる“ヒットの構造”

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鑑賞から体験型消費へ

 アニメと実写では「消費体験」が違うとされる。実写映画では作品を鑑賞することが目的化しがちだが、アニメの場合、鑑賞だけでなく、映画館に行くという行為そのものをSNSに投稿し共有。さらに特典をもらったり、何度もリピート鑑賞する体験も幅広く共有化され、作品を取り巻く状況全体を“エンターテイメント”として楽しむカルチャーが成立している。

 作品の鑑賞だけなら、テレビや配信でも可能ななか、わざわざ時間をかけて映画館に行くという体験が、観るのと同じくらい重要なイベントとなっているのだ。ライブコンサートでアーティストと同じ空間で音楽を楽しみ、また家族や友だちとテーマパークに出かけるのと同じく、映画を観に行くという行動にも、日常と違う「特別なコト」が加味されるようになった。

 その体験型消費を強化する重要なツールがSNSだ。鑑賞前に映画館の様子を撮ってSNSに投稿、見終わった後に素早く感想を書き込むと、口コミでまたたく間に伝播していく――。このサイクルがアニメ映画では特に活発だ。作品を褒める誰かの投稿を見て観に行く、その新たな投稿を見て次の人が、さらに別の人も……と、動員が“雪だるま式”に膨らむ構図になっているのだ。

 一方で劇場側のマーケティングも巧みだ。話題になるイベントを作りだすだけでなく、映画館に行けばキャラクターのパネルや展示などに加え、カフェではコラボメニューを用意。また舞台挨拶やライブビューイングも必須となっている。

“スラダン”人気が中韓で爆発の理由

 近年ますます盛んになっているのが鑑賞特典だ。クリアファイルやポストカード、設定集などの限定グッズ。さらに原作者が書き下した小説やマンガなどが配られることも多い。なかには先着限定で「第2弾」「第3弾」と特典の種類を変え、“ここだけ”や“今だけ”といった体験型消費を刺激する仕掛けが満載となっている。

 アニメでも大作になると、公開最初の週末にシネコンで朝から夜まで切れ目のない上映プログラムが組まれることも珍しくない。いち早く作品を見るという特別感を生む体験に加え、瞬時に伝播する口コミに対応したものだ。

 こういった鑑賞方法は今後、海外でも広がるかもしれない。『すずめの戸締まり』と『THE FIRST SLAM DUNK』が中国と韓国で大ヒットしているが、中国では両作品ともに興行収入が100億円を超えたという。

 もともと新海誠監督が中韓で人気の高いこと、「スラムダンク」が90年代にアジアで大ヒットした漫画(アニメ)であるという事実はある。しかし、それだけでは現在のヒットの理由をすべて説明できない。背景には“旬でホットな作品”をリアルタイムで映画館で観るという、最近のアニメ作品が持つイベント性やライブ体験の高さがあると考えられる。

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