坂本龍一さんの本質とは それは私が出会った頃から最後まで変わらなかった【松武秀樹氏の証言】

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優しい男

 坂本さんの根本には強固な理論が存在しているが、人生において常に感性を磨いてきたことも間違いないという。

「僕も本は読みますが、読書家としての坂本さんはもうレベルが違いました。坂本さんは幼い時から読書を重ね、反体制運動も含めて様々な経験を積み、鋭敏な感性を手に入れたんだと思います。僕はたまたま若き日の坂本さんに会いました。あの時は髪の毛が長くて、下駄かビーサンを履いていて、学生運動の名残があった。でも亡くなる直前まで、彼の本質は全く変わりませんでした。ちょっと会えない日々が続いてメールで連絡しても、いつも『ありがとう』と丁寧な返事を送ってくれる。世界の坂本になっても偉ぶらない。『もう松武なんかとは付き合わない』なんてことはない。逆説的な言い方ですけれど、いつ会っても『いい加減、酒を止めなよ』と怒られるような人間関係を続けることができました」

 坂本さんと初めて会う人は必要以上に気を使うことが多かったという。

「どうやって話しかけたらいいんだろうって悩む人を、いっぱい見てきました。でも、そんな心配の必要はないんです。教授はめちゃめちゃ優しい男です。確かに怒ったら手が付けられない時がありました(笑)。頭のいい人だから、段取りが悪かったりすると激高しました。『そんなにひどいことを言わなくてもいいだろう』って忠告することはできませんでしたけど、心の中で呟いたことはありました。でも、坂本さんが激高するなんて年に何回もありません。普段は細やかな気遣いができる人でした」

松武と坂本

 松武さんは「YMOとは機械と人間のせめぎ合い」と語った。どんなに技術が発達しても、それは永遠に変わらないという。

「シンセサイザーは人間の代わりにはなれません。電子楽器が音楽の全てを支配するというのは今はあり得ないですし、将来も起こらないでしょう。そもそもシンセと生音を比較するのが無意味で、僕は『サンプリング』って言葉も嫌いですが、それは生音に勝る生音はないと考えているからです。レコーディングで生音が必要なら、スタジオミュージシャンに演奏してもらうのが一番です。サンプリングの必要なんてありません。ただ、僕の本業がシンセサイザーであることも事実です。坂本さんはYMOの楽曲を含め数多の作品を僕たちに残してくれました。自分のできる範囲内で、中身を改めて分析したいと思っています。そして、やはり僕はシンセを使って坂本さんの曲を演奏し、後世に残していきたい。『坂本さんが生きていたら何をやろうとしていたのか』なんてことは分かるはずもない。でも『松武秀樹が考える坂本さんがやりたかったこと』は発表できるのではないかと考えています」

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デイリー新潮編集部

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