坂本龍一さんの本質とは それは私が出会った頃から最後まで変わらなかった【松武秀樹氏の証言】

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YMOのアナログ性

 もちろん言説として間違ったところは何もない。だが、YMOで「第4のメンバー」と呼ばれた、シンセサイザープログラマーの松武秀樹さんは「YMOは、アナログ的な演奏も非常に重視していた」と振り返る。

「細野さんも幸宏さんも坂本さんも、『YMOの本質はデジタルとアナログのせめぎ合いだ』という共通認識を持っていたと思います。機械が主役でもなければ人間が主役でもない。共に主役を務め、機械と人間が共存する。そういった思想を持っていたからこそ、海外ツアーで渡辺香津美さん(69)にギターを依頼したり、2枚目のアルバム『SOLID STATE SURVIVOR』でビートルズの『DAY TRIPPER』をカバーした時、ギターソロを鮎川誠さん(1948~2023)に頼んだりしたのだと思います」

 渡辺香津美さんも鮎川誠さんもギターの名手であることは言うまでもなく、共に“アナログ”のイメージが強い。ちなみに渡辺さんは“ジャズギタリスト”と形容されることが多いが、松武さんは「ロックやテクノの曲を弾いてもらっても、めちゃくちゃに上手い」と言う。

「鮎川誠さんを起用したのは細野さんでした。プロデューサーとしてのセンスを感じますが、面白い話はまだあります。『DAY TRIPPER』のギターソロはアドリブ演奏のテイクを複数録音しました。そして、全部の音源をスイッチで切り替えながら録音して完成したそうです。要するにスイッチングで鮎川さんのギターを切り貼りしたんですね」

サウンドの重層性

 普通のリスナーなら違和感を持たないが、実のところ鮎川さんのギターソロはつながりにおかしなところがあるという。

「細野さん、幸宏さん、坂本さんの3人でスイッチングしたのかは分からないですけれど、この話を教えてくれたのは坂本さんでした。鮎川さんは自由にギターを演奏し、YMOの3人はテクノロジーを使って統御しようとした。ここには人間と、テクノロジーを利用した人間のせめぎ合いがあります。YMOのサウンドは、ある時は機械と人間がせめぎ合い、ある時は人間と人間が、そしてまたある時は機械と機械がせめぎ合う。せめぎ合いの構図は複雑で、様々な対立項がモザイクのように折り重なっている。その重層性が桁外れだからこそ、今でも魅力的なサウンドなのだと思います」

 1979年8月2日から4日にかけ、YMOはロサンゼルスの野外ステージ「グリーク・シアター」で、アメリカのバンド「チューブス」の前座としてライブ演奏を行った。さらに6日には、同じくロサンゼルスのクラブ「マダム・ウォン」で単独ライブも開催した。

 79年10月には初のワールド・ツアー「YELLOW MAGIC ORCHESTRA TRANS ATLANTIC TOUR(トランス・アトランティック・ツアー)」を開催。開催地もロンドン、パリ、ニューヨーク、ワシントンD.C.、ボストンと、まさに世界の主要都市で聴衆を魅了した。

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