YMO「伝説の海外ツアー」を松武秀樹氏が語る BEHIND THE MASKの演奏で重大なトラブルが…その時メンバーはどうしたか

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非デジタルとしてのYMO

 もちろん他のメンバーも事故には気づいていた。だが、矢野さんがキーボードの演奏を始めると、これまた何事もなかったかのように高橋さんがドラムを叩き、細野さんと坂本さんも続いた。

「結局、致命的な事故だったはずなのに、聴衆は最後まで『面白い効果音』だと誤解したまま帰宅してくれた。細野さん、幸宏さん、坂本さんという3人のミュージシャンの持つ技術と経験値がどれほど凄いのか、まさに思い知らされました。今でも僕は『パソコンを使って演奏する以上、事故は必ず起きる』と考えています。そして実際に事故が起こったら、焦りまくっても問題は解決しませんし、観客が気づいて醒めてしまう。『ミスなんてしてないよ』という顔で落ち着いて対処する。その姿勢がどれだけ大切なのか、YMOの3人に教えてもらったと思っています。僕の宝物の一つです」

 YMOがテクノロジーをフル活用したバンドと位置づける際、高橋さんのドラムが引き合いに出されることは多い。

 ライブで演奏される高橋さんのドラムは、コンピューターのように正確無比だ。なぜそんな超人的なパフォーマンスが実現したのか。それはコンピューターが刻む正確なリズムを高橋さんはイヤフォンで聴きながらドラムを叩いた。だからこそ、人間離れした正確なリズムを演奏できたのだ──。

「そのエピソードは半分正しいですが、半分は間違っています。幸宏さんはドラムのキックならコンピューターの指示に従っています。しかしスティックを持つ両手は、イヤフォンから聞こえるクリック音より少し前のタイミングで叩いているんです。だから幸宏さんは、“人力”で正確無比なリズムを刻んでいる。それどころか、少し前のタイミングでスティックを使い、足はクリック音にアジャストさせ、その後に僕がシンセを使って鳴らすシークエンスや、細野さんや坂本さんの演奏が続く。全体として見れば生楽器を使った普通の演奏と変わりません。結局、ミュージシャンは感性の固まりのような人々ですから、YMOの3人もライブ会場の雰囲気や聴衆の反応を感じながら即興で様々なアレンジを加え、極めてアナログ的な“1回しかできない演奏”を披露しているんです」

 続く3回目では、YMOサウンドの本質などについて話を訊いた。

 第1回【YMO「第4のメンバー」が語る“若き日の坂本龍一さん” 出会いは渋谷公会堂のイチベル制作、モーグⅢCを巧みに使いこなした衝撃】、第3回【坂本龍一さんの本質とは それは私が出会った頃から最後まで変わらなかった【松武秀樹氏の証言】】に続く。

デイリー新潮編集部

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