YMO「伝説の海外ツアー」を松武秀樹氏が語る BEHIND THE MASKの演奏で重大なトラブルが…その時メンバーはどうしたか

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発生した大事故

 頭を悩ませたのが電圧だ。アメリカは120ボルトで、ヨーロッパは240ボルト。シンセサイザーは電力の消費量が少ないため、どんなライブ会場でも電力不足を心配する必要はない。

 一方、電圧は大問題だった。日本から持って行ったシンセサイザーは100ボルトで使うことになっている。もし、そのままヨーロッパの240ボルトにコンセントを入れると、たちまちシンセは壊れてしまう。変圧器の確保には細心の注意を払った。

「うまく演奏できた日も、手放しで安心するわけにはいきません。『なぜ今日は成功したのか』という記録も残しておく必要があります。ちゃんと電源から電気が流れていたのか、電圧の変換は大丈夫だったか、それこそテスターを使いながら自分で計測しました。人任せにはできなかったですね」

 プログラムの記憶媒体は、何とカセットテープだった。2022年、山口県阿武町で新型コロナの給付金が誤って送金されるという事故が発生し、町役場で依然としてフロッピーディスクが使われていたことが判明、世論が呆れたことは記憶に新しい。だが、この頃はフロッピーディスクが最新の記録媒体であり、まだまだ磁気テープが主流だった。

「もう1個のカセットテープを予備として準備していました。ですが、それだけです。フロッピーもなければ、USBもハードディスクもネットのバックアップもない。実は技術が発達した現在も事故は起きて当たり前なんです。ですから80年代は事故が起きなければ奇跡という時代でした。色んなところで話したエピソードなのでご存知の方も多いでしょうが、アメリカの公演で大事故が起きてしまいました」

 現存するYMOのライブ音源のうち、名曲「BEHIND THE MASK」はヨーロッパで録音されたものはシンセのシークエンスが走っている。ところが、アメリカで録音されたものはシークエンスが全く聞こえない。

「アメリカ版は事故で一瞬にしてデータが飛んだ音だけが録音されました(笑)。しかもライブが始まってオープニングの曲が流れ、さあ『BEHIND THE MASK』だ!となって僕はボタンを押しました。ところが、『ぱららららら、ばん!』と物凄い音がして、5秒くらいで終わったんです。ところが観客は、面白い効果音だと盛り上がっている(笑)。僕の隣は矢野顕子さん(68)で、事故に気づいて真っ青でした。それでも僕が『リフから弾いてください』とお願いすると、落ち着いてキーボードの演奏を始めてくれたんです」

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