あなたの“不満”がカネのなる木に! 「不満買取センター」に有名企業が熱視線を送る理由
商品やサービスの開発に結びついた例も
実際に、コロナ禍の不満から生まれた新商品が、味の素AGFの「ブレンディ」ザリットルだ。同商品は、粉末を水に溶かすだけでお茶やコーヒーを楽しめるパウダードリンクだが、外出自粛を迫られたからこその商品だという。
「まず一つが“2Lのペットボトルを購入して家まで持って帰ることが大変”という声。二つ目が“持って帰ってきたものの、何本も置いておくと邪魔になる”。三つ目が“ペットボトルは環境に良くないのではないか”という意見でした。こうした不満を取り入れた結果、水に溶かすだけで作ることができる『ブレンディ』ザリットルは誕生しました」
「不満買取センター」に寄せられる不満は、“自発的”な不満という点が特徴だ。たとえば、街中で新商品に対するアンケートを求められた際、私たちはわざわざその商品を試し、無理やりポジティブな意見とネガティブな意見をひねり出す。一方、暮らしの中で感じた違和感や不満を、好きなタイミングで自ら投稿できる「不満買取センター」には、「オーガニックな不満が集まります。この点を企業さまからはご評価いただいている」と伊藤代表は明かす。
たかが不満と侮るなかれ、である。不満をきっかけに、予期せぬサービス、潜在的に眠っているニーズを掘り当てる可能性があることを、「不満買取センター」は浮き彫りにした格好だ。
また、不満の内容は、商品・サービスに対するものだけではなく、生活シーンで感じたことでもいいそうだ。「他者の口臭を指摘しづらい」といった意見が多数寄せられたことで開発された、ライオンの口臭ケアサポートアプリ「RePERO」(現在はサービス終了)は、生活シーンの不満から誕生したサービスだ。
「コロナ禍でいえば、“在宅ワークが増えたことで、いつも夫が家にいるため、会議の音声がうるさい”などの不満が増えました。生活行動が変わる中で起こる、いわゆる信用不信みたいなものにビジネスチャンスが隠れている」
ペイン起点のマーケティング
ようやく社会のムードは、アフターコロナになりつつある。再び生活行動が変化しているからこそ、それに応じて「不満も変化している」と伊藤代表は話す。
「積極的に外出する機会が戻ってきたことで、コロナ前までは気にならなかったことが気になる方が増えているのかなと。統一地方選挙があったこともあり、ここ最近は、“鉛筆のカリカリと書く音が気になる”といった類の不満が目立っています。あくまで私の雑感ではありますが、今後、いろいろなものをミュートできる……、たとえば、鉛筆やキーボードの音を消すだけではなく、みんなでご飯を食べていても自分のタイミングで匂いをオンオフにできる。そういった商品・サービスが生まれるかもしれません」
不満は、心地よさを作り出すための写し鏡と言えるかもしれない。技術的な進歩もあり、令和の時代は、「そんなものにまで価値が生まれるのか」――。目を丸くするような新サービスが続々と生まれそうだ。
「必要となるサービスや欲しいものを探り当て提供するといった顧客ニーズ起点から、生活者がお金を払ってでも解決したいポイント……、ペイン起点のマーケティングに変わってきています。生活者の皆さんのナチュラルなご意見が価値を生み出すと感じています」
「ペイン」とは痛みを意味する。その痛みを取り除くためにお金を払う“価値”が生まれる時代に、我々はいる。
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