【ペンディングトレイン】赤楚衛二と正反対…悪そうに見える山田裕貴の“特別な持ち味”とは

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山田に優等生役は似合わない

 山田裕貴は表面上では悪でありながら、良心を内在させている男が似合う。単純なキャラクターより複雑な役柄のほうが持ち味を発揮する。

 2020年の快作「ホームルーム」(毎日放送)での主人公・高校教師役もそうだった。好きな教え子の女子生徒の家に毎晩のように忍び込み、のぞき見をしながら素っ裸になるド変態だったのだが、生徒思いであり、この女子高生のことも心から愛していた。

 9作もつくられた映画の代表作「闇金ドッグス」シリーズ(2015~2018年)で演じた主人公の闇金業者もそう。その取り立ては情け容赦ないのだが、一方で金を貸した人間が返済した後に成功することを期待している。困り事の相談にも乗る。

 主人公ではないが、NHK大河ドラマ「どうする、家康」における徳川家臣団の本多忠勝役も適任に違いない。激情型の男で、主君の徳川家康(松本潤・39)に説教をしたことまである困った男だが、合戦では死も恐れない。

 山田は見るからにワイルドなアウトサイダーなのだから、単なる優等生や好人物をやらせたって面白くない。そんな作品もあったが、山田は評価されずに終わっている。「ペンディングトレイン」は山田のプライム帯(午後7~同10時)の初主演作ということもあって、本人の個性を生かそうとしているのが分かる。

 萱島とは対照的な人物に見える白浜も実は複雑な男なのだろう。「自分は消防士だから、何が何でも他人の命を守らなくてはならない」という強迫観念にとらわれているように見える。先輩消防士・高倉(前田公輝)が火災現場で自分を爆発から守り、そのせいで重傷を負ったため、贖罪意識があるのではないか。

残されている謎、描かれているのは過去?

 もう1人の主要登場人物は高校の体育教師・畑野紗枝。上白石萌歌(23)が演じている。屈託がなく、最も真っ当な人物に見える。白浜を補佐する形で乗員乗客のために尽くしている。萱島がシラケて見ていようが、「やれるだけやってみよう、私のポリシーです」と言い、めげない。

 気になるのは第1話の冒頭の映像だ。紗枝が生後間もない赤ん坊を抱え、キャリーバッグを引き、駅のホームを走っている。そこで流れた紗枝によるナレーションは「愛する君へ、この世界が永遠に続くと思っていた私たちは――」。タイムスリップを過去形で語っている。

 この物語は乗員乗客が現代に戻ることが出来た後の追想なのかも知れない。そうであるなら、赤ん坊の父親は萱島か白浜か、それとも別の誰かなのか。

 上白石も姉の上白石萌音(25)もデビューが10代前半で、それゆえにアイドル的な存在と見る向きもあり、評価の点で損をしている嫌いがある。しかし、姉妹ともに間違いなくうまい。

 例えば上白石の場合、下手な人が「やれるだけやってみよう――」と生真面目に言ったら、綺麗事に聞こえ、ウソっぽくなる。純粋な人間をリアルに演じるのは難しい。

 古川琴音(26)もいい。演じているのはネイリスト・渡部玲奈で、謝ったら死んでしまう病気にかかっているとしか思えない不遜な人物あり、おまけに手クセも悪い。それでいて根っからの性悪とは思わせない。「どうする、家康」での千代役もそうだが、古川にはフシギ系の女性役がハマる。

 今後の大きな見どころの1つは「68人の中に紛れ込んだ殺人犯は誰か」。第1話の序盤、刑事の永田信也(41)らが駅のホームで誰かを捜していた。その行動の理由は第2話で分かった。電車の床に落ちている新聞にこう書かれていた。

「北千住駅前 男性胸刺され死亡 金髪男 刃物持ち逃走」

 物語の流れを考えると、68人のうち誰かが犯人。金髪は確認できる限り、萱島とゲーム専門学校の米澤大地(藤原丈一郎・27)である。どちらかが犯人なのか、あるいは車両から出ていった人物による犯行なのか。いずれにせよ、誰かが新聞に気づく。萱島と米澤は疑われ、ひと騒ぎになるだろう。

 このドラマはタイムスリップ系というより、サバイバル系の流れを汲む。米国では孤島に墜落した飛行機の生存者たちが争い、助けあうドラマ「ロスト」(2004年)がヒットした。

 日本では、楳図かずお氏(86)による漫画「漂流教室」が1972年から『週刊少年サンデー』(小学館)で連載されると、大反響を呼んだ。小学6年生たちが荒れ果てた未来に行ってしまう物語で、人間の愚かさや凄まじいまでの母子の絆、子供たちが持つ無限の可能性などが描かれた。世界的に評価され、映画化や連ドラ化された。

 サバイバル系で問われるのは、作者がどんなメッセージを込めるかに尽きる。「漂流教室」が絶賛されたのも、設定のユニークさなどではなく、梅図氏が人間の実像を浮き彫りにしようとしたからだった。

「ペンディングトレイン」の脚本を書いている金子ありさ氏(49)はどんな思いを込めるのか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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