【立川・6億円強奪事件】お客に余計なことを言ってしまったばかりに……逮捕された美容師が法廷で語った「後悔と反省」

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「自分の情報がもとで事件が起きた」

 2010年に上田の美容室に進藤がやってきて「他の人にやってもらうことにした。やらせる人間は筋モノ」だと告げる。遅れてやってきたNに対しても進藤は「強盗計画は別の人間を使い実行する」と報告した。

 幻の襲撃計画リーダー、Nは公判で当時のことを語っている。

「この時、手を引こうと思った。他の人に実行させたら、その人たちに金持ってかれる。参加できないならやる意味がない」

 こうしてNはリーダーを降りる。しかし、その後も上田は、犯行グループらの“情報源”として図面を複数回書き直して渡し、翌2011年に事件は起きた。上田は公判で次のように振り返っていた。

「『もし金なかったら、どうなるか分かってるよな』と言われて、私、報復されるか、家族に危害が及ぶのかと思った。単純に怖かった……」

 しかし、暴力団の影に怯える一方で、「もし社員を殺したら自首する」と強めに釘を刺していたというから不思議である。「分け前が欲しいという気持ちは多少あったと思う」とも明かした。会社に多額の現金が保管される曜日についても、進藤を介して犯行グループに伝えていた。

「美容師のクセで、つい喋ってしまう。聞かれたこと以外も自分から喋ってしまう」(被告人質問での発言)

“口は災いの元”という諺の重みを痛感したのか、上田は最後にこう語った。

「私がいないと事件は起きなかった。自分の情報がもとで事件が起きた。事件から遠いが、事件は影のように付きまとっている。関わったことは少ないが、役割は一番大きいと思う」

 上田には懲役9年の判決が言い渡されている。事件で強奪された6億円のうち、およそ3億6000万円は、いまだ回収されていない。

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。

デイリー新潮編集部

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