【立川・6億円強奪事件】お客に余計なことを言ってしまったばかりに……逮捕された美容師が法廷で語った「後悔と反省」
ついに逮捕された「情報屋」
そして、捜査が進むと警備会社の防犯体制の不備もすぐに明らかになった。
同社の入り口は施錠されていたが、会社内部の腰高窓は鍵が故障しており、警備システムも作動していなかったという。2人組は、その腰高窓から侵入していた。さらに、この警備会社は過去にも盗難被害に遭っていた。2003年10月、新宿区の駐車場に停めた現金輸送車から約1億5000万円が奪われ、また2008年12月には、杉並区の郵便局で現金回収中、近くに停めていた現金輸送車から約6900万円が奪われるという事件が起きていた。
過去二度の盗難がいずれも未解決だったことや、ずさんな警備体制が明らかになる一方で捜査は進んでいく。警視庁は現場に押し入った2人組の逃走経路の解明を急ぎ、6月に入って、周辺の防犯カメラ映像などから実行犯の逮捕にこぎつけた。その際、実行犯の携帯電話からは“指示役”や“協力者”と思しき人物との通話履歴が多数発見されている。
共犯者に繋がる情報を得た警視庁は捜査の手を広げ、時を追うごとに逮捕者は増えていった。だが、事件から3ヵ月が経ち、10人目が逮捕された時点でも、最大の疑問である“犯行グループがどのようにして警備会社の内部情報を入手したのか”については判然としていなかった。そうしたなか、夏が過ぎ、秋になったところで、ついに「情報屋」の役割を担った男たちが逮捕されるのだ。
「美容師」には警備会社での勤務経験があった
そのうちの1人、会社経営者の進藤誠一(仮名/当時41歳)の逮捕を知り、「私が内部情報を漏らした」と自ら捜査本部に電話をかけてきたのが、上田康(仮名/当時44歳)だった。
「もう逃げられないと思った」
逮捕当時、そう語っていた上田の職業は美容師。警備会社の窓の鍵が壊れていることなど、内部情報を犯行グループに漏らした張本人だ。進藤は上田の客だった。美容師の上田は、なぜ警備会社の内情を知っていたのか。それは、上田自身がこの警備会社で働いていた経験があったからだ。
2012年7月、東京地裁立川支部で開かれた上田の公判(建造物侵入教唆、強盗傷人教唆で起訴)で読み上げられた検察官調書によれば、「1995年に美容室を開店したが、収入にバラつきがあり、中学時代の同級生の紹介で2005年から件の警備会社に週3回で勤務するようになった」という。上田が言うには、勤務で知り得た情報を客に漏らしたのは、警備会社に抱いていたわだかまりがあったからだという。
「平日夜間に車で売上金を回収する業務を担当していたが、この会社は、警備がとても杜撰で、問題を揉み消す。教育もなっていない。2人一組で勤務にあたるが、一緒に組んでいた男は飲酒運転の常習者でアルコールの匂いをさせていた。車は二重ロックもない中古のバンで、無線機もついていない。正社員にも相談したが、逆に所長に怒られた。給与も安く不満だった……」(上田の検察官調書)
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