「突っ立ってねえで、こっちへ来い!」 漫画原作者・早川光に激怒した老舗すし店の大親方の“本当の目的”とは?
しゃれっ気たっぷりの出版祝い
すぐに意味が理解できず、目をパチパチしている僕に、大親方は少しだけ優しい声で「だから、俺が買ってやるって言ってるんだ」。
後で知ったことだが、大親方は僕の拙い本を合計2千冊以上購入し、店のお客さんに配って下さったという。つまり怒ってみせたのは芝居で、実は、いかにも浅草生まれの江戸っ子らしい、しゃれっ気たっぷりの出版祝い、はなむけだったのだ。
しかし、当時24歳の僕は、そのはなむけを素直に受け止めることができなかった。店に行けばまた叱られるのではないかと足が遠のき、一度も直接お礼が言えないまま、大親方は鬼籍に入られてしまった。
だから僕はずっと思い続けている。いつかあの世に行く時が来たら、まず大親方の所へ行って、非礼をわび、改めて感謝の気持ちを伝えようと。でもきっと「今頃ノコノコ、どの面下げて来やがった!」と、今度こそ本気で叱られるんだろうな。
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