寝たきり老人を激減させた「奇跡の村」 102歳医師が明かす「死ぬまで元気」の秘訣

ドクター新潮 ライフ

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「老人と性は関係ない」という老人神話

 体を動かして健康になることだけが満足な生き方につながるわけではない。年を重ねても仲間がいれば楽しいし、それも好きな人ならなおいい。疋田さんがそのことに気付いたのはある悲劇があったからだ。

 妻に先立たれた男性が診療所でリハビリに励んでいたが、あまりにも熱心なので、疋田さんは彼の仲間に尋ねてみた。すると、茶飲み友だちの女性がいて、元気で彼女と会いたい一心でリハビリに励んでいるのだという。ところが、そのことが自分の家族に知れると、相手の女性は遠ざけられてしまった。女性に会えなくなった男性は、リハビリに見向きもしなくなり、やがて寝たきりになって死んだ。疋田さんによれば、原因は「老人と性は関係ない」という「老人神話」があるからだという。年を重ねたら枯れたようになるという先入観は今も根強いが、体に生理的な変化があっても性への関心がなくなるわけではない。「性を自由に語れる雰囲気があれば、元気になる年寄りはずいぶんいるのに!」と疋田さんは悔しがった。

異性を紹介するとうつ病が消滅

 以来、疋田さんは、必要とあれば患者に異性を紹介するようになった。たまたま私が取材していたときだ。愛妻に先立たれてから何も手につかず、うつ病になった一人暮らしの男性がいた。疋田さんによれば「健康度が高いのは独居老人が1番で、その次が老夫婦、3番目は子供と同居する老人」だそうだが、ただ夫は妻に先立たれると精神的にも不安定になりやすく、この男性もそうだった。

 病院で薬を処方されたが、副作用で歩くのが困難になっていた。男性から相談を受けた疋田さんは、まず薬を断たせたうえで、車椅子で一人暮らしをしている女性の相談相手になってほしいと頼んだ。男性はちゅうちょし、拒んだが、疋田さんが「あんたは話をして相手に喜んでもらうんやから、これは老老ボランティアとちがうか」と説得すると、ようやく納得した。数日後、世間話をするつもりで女性を訪ねると、相手は喜び、何度か通ううちに男性のうつ病が消えてしまったという。他者や社会とつながることで、少しでも自分が役立っていることを実感できると、生きる力がみなぎってくるのだろう。

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