寝たきり老人を激減させた「奇跡の村」 102歳医師が明かす「死ぬまで元気」の秘訣
筋肉と柔軟
老化を実感するのはたいてい筋力の低下からだ。寝たきりになるのも筋肉の衰えからである。筋肉に負荷をかけないと、知らないうちに衰えていくが、それを知らずに若いときの感覚でいると、段差につまずいて転倒しかねない。運悪く骨折でもして1カ月も寝込めば、そのまま寝たきりだろう。これを防ぐには、筋肉量が低下しないように鍛えるしかないのだという。
実は寝たきりを防ぐのに効果的なのは筋肉を維持すること以外にもう一つ、体を柔軟にすることだと疋田さんに言われた。筋肉が弱ってくると、ちょっとしたことでバランスを崩してしまう。体が硬いと無理な体勢で倒れて骨折しやすい。そうならないためには体を柔らかくすることだそうだ。
死ぬまで働く
当時の疋田さんは各集落で健康教室を開いていたから、そこで住民相手に、体を動かすことがいかに大切かを切々と語っていた。
「元気でいたかったら死ぬまで働きなさい」
働けというのは、体力に合わせて体を動かせということだ。これがもたらした結果は大きく、疋田さんが赴任して18年目に、佐賀町は国保料を下げたのである。住民が健康になって病院に行かなくなり、医療費が減ったからである。
ある日、疋田さんの取り組みを知った近隣の西土佐村(現・四万十市)の村長が、村議を連れて疋田さんの予防医学を学ぼうとやって来た。そして村に戻ると、空き地を村民に無料で提供し、そこで作った露地野菜を村と農協で買い取ることにした。小遣いが稼げるとあって、年寄りたちは昔取った杵柄とばかりに競って野菜づくりに励んだものだから、わずか5年で7億円産業になった。それだけではない。人口3800人の村に、介助が必要な寝たきり老人は22人いたが、5年後には2人にまで減り、6年後には西土佐村も国保料を引き下げた。西土佐村が佐賀町より短い期間で下げられたのは、自治体が全面的にバックアップしたからである。体を動かすことが高齢者を元気にさせることをここでも実証したのだ。
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