長嶋茂雄「怒ったふり作戦」に「4倍返し」…現役時代の「ミスター伝説」を振り返る!

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「ここへ投げろ!」

 頭部付近への危険球に“怒ったフリ作戦”で対抗し、先制点につなげたのが、70年6月16日の広島戦である。0対0の2回、先頭打者・長嶋が打席に入ると、外木場義郎の手元が狂い、初球のシュートが頭上スレスレを通過した。

 咄嗟に倒れ込み、かろうじて難を免れた長嶋は、むっくり起き上がるやいなや、手にしていたバットを投げ捨てると、外木場に向かって「ここへ投げろ!」とホームプレートの真ん中を指差した。

 これを見た外木場は思わず吹き出してしまい、制球も乱れて、長嶋を四球で歩かせる。これで勢いづいた巨人打線は、無死一塁から“外木場キラー”末次民夫が左前安打で続き、犠打を絡めて先制点を挙げると、その後も王貞治の一発などで加点、3対1で勝利した。
 
 試合後、長嶋は「別にカッとはしなかったが、ああやっておけば、効果があるからね」と勝利を呼んだ自らの役者ぶりにまんざらでもなさそうだった。

特大の先制満塁弾

 相手のトリックプレーにしてやられたチョンボを自らのバットで“4倍返し”にして取り返したのが、現役最終年、74年5月1日の大洋戦である。

 0対0の6回、巨人は先頭の長嶋が四球で出塁も、次打者・高田繁の打球は併殺コースの二ゴロとなった。

 大洋のセカンドは、のちの長嶋監督時代の78~80年に巨人でもプレーしたジョン・シピン。一塁走者・長嶋が走ってくるところを待ち構え、グラブでタッチしたが、実はボールは右手にあり、空タッチだった。

 ところが、すっかりアウトになったと思い込んだ長嶋は、騙されているとも知らず、そのままUターンして、ベンチに引き揚げていくではないか。

 これを見たシピンは、一塁に送球して高田をアウトにしたあと、もう一度、二塁に送球してもらい、今度は本当にアウトを取った。

 この日の長嶋は、山下律夫の前に1打席目が二ゴロ併殺打、2打席目も二ゴロに抑え込まれ、3度目は空タッチでアウトといいところがなかったが、やられっ放しで終わらないのが、ミスターの真骨頂。0対0の7回2死満塁で4打席目が回ってくると、カウント2-2から外角低め一杯の快速球を見逃すも、ボール判定に救われる。

 そして、フルカウントから山下の内角寄り直球をフルスイングすると、左翼席上段に突き刺さる特大の先制満塁弾になった。

 チョンボを帳消しにしたばかりでなく、勝利のヒーローになった長嶋は「3-2になれば、ヤマなど張っていられない。どこでも来いの構えだった。ただし、山下はカーブでは来まい。緩い球ならオレがお手の物と知っている。速球勝負は間違いないと思っていた。そこへ内角高めのストレートだ。外角攻めばっかりだったし、みんな際どい球。しかし、あれだけが甘かった。オレは思い切って振ったよ」と“野生の勘”の勝利に“長嶋節”も一段と冴えわたっていた。

 同年は5月28日の阪神戦でも、江夏豊から通算435号となる現役最後のグランドスラムを記録している。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮編集部

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