イタリア出身の翻訳家、イザベラ・ディオニシオが語る「木綿のハンカチーフ」に魅せられた理由

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5年前に元カレと再会

 太田裕美の名曲は、「ハンカチーフ下さい」という女の言葉で締めくくられる。結局どうなったのか、聴き終わるとその後を想像して、しばらく物語の余韻に浸ってしまう。パリッとしたスーツを着込んだ彼は、とうとうハンカチーフを送ったのかな? 彼女は諦めて、別の人と結婚したのかな? いくらでも妄想が膨らむ。

 私の場合、その後はどうなったかといえば、元カレと5年前に再会を果たしたわけである。

 何がきっかけで連絡を取ったのか完全に忘れたけれど、ちょうど里帰りする予定だったので、久しぶりに会う約束をした。ドキッと。

 ご飯を食べながら、近状報告を交わして、適度に過去を懐かしみ、それなりに楽しい夜を過ごした。そして、別れ際に「サン・マルコ広場までさすがに行ってないけど、2年が経った頃には思い出していたよ」とはにかんだ表情で彼が言った。相手はイタリア人男性だから話半分に聞くことが賢明だが、全く未練を感じていない自分に安心した。ネオンの明かりに煌々(こうこう)と照らされた東京の街角はやはり自分に最も似合う場所だ。帰りのフライトが待ち遠しく、「ぼくはぼくはAh帰れない」と私はふと口ずさんだ。

イザベラ・ディオニシオ
1980年イタリア生まれ。日本文学の研究に取り組む傍ら、翻訳家として活動する。近著に『女を書けない文豪たち イタリア人が偏愛する日本近現代文学』。

デイリー新潮編集部

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