モーツァルト、ベートーベンが愛した「絶品ビフテキ」とは? 温泉エッセイストが厳選した「おいしい温泉ごはん」

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旬を迎える「天然岩ガキ」と「大粒トリ貝」

 京都の北部、日本海側にあって「海の京都」と呼ばれる宮津は海産物が目玉だ。それは北前船の寄港地として知られる宮津に残る、「宮津節」の歌詞にも表れる。

 二度と行こまい丹後の宮津、縞(しま)の財布が空になる――。

 宮津に立ち寄るとおいしい海の幸、山の幸に囲まれて、ついついお金を使ってしまい、財布の中がすっからかんになるという様子を歌っている。

 初夏の名物・丹後トリ貝はおよそ8センチもの大きさ。盛夏に出される丹後岩ガキも大きい。どちらもぷりっぷり。特にカキはミルクのようにクリーミーで、チーズのようなコクだ。

 丹後トリ貝や岩ガキをいただいたのは宮津温泉「日本の宿 茶六(ちゃろく)別館」。ご当主は“おいしい旅館”が加盟する団体「日本の宿を守る会」の取りまとめ役もされている。

 ちなみに宮津には宮津温泉に加え、天橋立温泉もある。

「ホテル北野屋」は、客室から天橋立が一望できる。貸切風呂には広々としたテラスが付き、ヒノキでできた浴室と御影石の湯船。湯船の横のスペースに一度腰を下ろし、体を回転させて、温泉に入ることができるから、足腰に不安のある高齢者にも入りやすい。もちろん天橋立もよく見える。

常連「谷崎潤一郎」が愛した「100年カレー」

 谷崎潤一郎といえば、関東大震災の後に関西の神戸へ移住し、有馬温泉に通ったことで知られている。

 定宿にしていたのは「陶泉 御所坊(とうせん ごしょぼう)」。谷崎作品にも度々登場する。

『猫と庄造と二人のをんな』では、「そしたら、又御所の坊の二階にしょうか」という台詞が出てくる。

 また、『細雪』に登場する4姉妹の末っ子のモデルとなった女性は、「小説に出てくる『花の坊』は『御所坊』のことよ」と話していたそうだ。

 以上は、「御所坊」15代目当主・金井啓修(ひろのぶ)さんから伺った話である。

 金井さんが「うちのダブルオニオン・神戸ビーフカレーはオリエンタルホテルのレシピ。谷崎潤一郎が愛した味なんですよ」と教えてくださった。

 このカレーがいまだに恋しい。そう、あのうまみのある“甘さ”が口に広がった時の高揚感――。

「ダブルオニオンカレー」を食べた後に、他のものを口にしたくなくなったのだ。それほど後味を引くカレーだった。

 このカレーは神戸の歴史と共にある。

 1868年(明治元年)、外国に開かれた窓口として神戸が開港し、外国人居留地ができた。そこでは当時、格式ある「オリエンタルホテル」のカレーが目玉料理だった。その味を受け継ぐ名物が「100年カレー」という愛称で親しまれている。そう、「御所坊」で私が食べた“谷崎の好物”である。

 有馬温泉名物の「金泉」はナトリウムと塩分濃度が高いねっとりとしたお湯で、入浴すると瞬く間に顔中から汗が噴き出してきて、目にしみるほどだ。こうした温まり効果抜群の「金泉」を気に入ったのは豊臣秀吉。子宝に恵まれなかったねねを連れてきたという史実もある。

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