日本人だけが今もマスクを外せない 欧米との差を生んだ理由は「言語」にあった

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表情筋を動かさずに喋れる日本語

 西洋音楽はいうまでもなく西洋発祥の音楽で、声楽も同様だ。とりわけ声楽は言葉を歌うので、西洋の言語と密接な関係がある。ところが、日本人はイタリア語にせよ、フランス語にせよ、ドイツ語にせよ、英語にせよ、西洋の言語の発音を真似するのが下手で、そのことは日本人歌手にとって大きなハンデとなり、彼らが世界で活躍できない大きな原因になっている。

 それは日本語と西洋の言語とでは発声のメカニズムが、端的にいえば発語の仕方が大きくことなることに依拠している。イタリアに長く住むオペラ歌手はこう語る。

「日本語は口先をわずかに動かすだけで、ほとんどの意思疎通が可能ですが、それは発語する位置が口先だから。一方、欧米の言語は舌の付け根のほうで発語し、口内をかなり動かして言葉にします」

 具体的にはどういうことだろうか。

「イタリア語もドイツ語も英語も、欧米の言語は口内のあらゆる筋肉を動かさなければ、ネイティブのような発音にはなりません。欧米の言語は喋る際に顔の下半分の表情筋をかなり大きく動かすので、結果的に、顔の下半分が非常に豊かな表情になるのです。一方、日本語は表情筋をほとんど動かさずに喋れて、それで十分に意思疎通ができてしまう。韓国語や中国語と比較しても、圧倒的に表情筋を必要としません。だから、日本人は欧米人の発音を真似るのが苦手なのです」

長い歴史に根差している

 このコロナ禍、声楽界では日欧の差がさらに開いたことが懸念されている。マスクを着用することで、声楽にとって一番の土台となる呼吸が浅くなることは以前から指摘されていたが、加えてマスクをしていると表情筋を使いにくい。しかも、日本語はそれでも喋れてしまうので、日本人はますます表情筋を使えなくなる、という懸念である。

 しかも、欧米の人たちがとっくにマスクを外しているなかで、日本人だけがなかなか外せないのだから、この懸念はますます深まらざるをえない。

 そして、日本人がなかなかマスクを外さない原因自体が、表情筋を使うか否かということに大きく関係している。

 欧米人は人と意思疎通をする際、常に顔の下半分を多様に動かして、豊かな表情を浮かべる。彼らはそれを意識して行っているわけではないが、上述のように言語の特性から、言葉をきちんと話そうとすると表情筋がさまざまに動くので、いきおい口の周囲に豊かな表情が浮かぶのである。

 いうまでもなく、それは欧米の言語が話されてきた長い歴史に根差しており、彼らは人と話すとき、相手の目よりも口の周囲を見ることが習慣になっている。欧米人にとっては相手の感情や心の奥底に秘めた思いは、顔の下半分の表情から読みとるものだから、マスクによってそれが隠されていると不安になるのである。

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