なぜロシアは制裁に屈しなかった? 世界の基軸通貨は米ドルから人民元に? 中国が世界経済を支配する「最悪のシナリオ」

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デジタル人民元の浸透に加担する日本企業

 それは中国も同じだが、現時点では中国が一歩リードしている印象が強い。理由は金融先進国のアメリカやイギリスでは金融機関の発言力が強く、彼らが導入に及び腰だからだ。その点、中国のすべての金融機関は中国共産党の統制下にある。

 巨額の損失が生じようとも、政府が割り切ってデジタル人民元の普及を優先すれば、金融機関はそれを受け入れざるを得ない。その中国では、国営企業の一部は給与の半額をデジタル人民元で支払い始めている。習氏は独裁国家ならではのスピード感で、デジタル人民元を浸透させるべく動いているのだ。

 結果的に、ではあるものの、その中国に加担している日本企業がある。東南アジアでグローバル展開を進めているユニクロがその一社だ。ユニクロは中国で人気があり、全国におよそ900もの店舗を持つ。すでに中国政府はユニクロにデジタル人民元での決済を求めている。中国国内の店舗に限るが、日本企業がデジタル人民元の拡大に一役買う形になっているのだ。今後はタイやマレーシアのユニクロでも、デジタル人民元での決済が可能になるとみられる。いずれアジアの大半のユニクロでは、デジタル人民元しか使えなくなるかもしれない。

 タイはデジタル人民元に協力的な国の一つだ。現政権を率いるのは元陸軍司令官のプラユット首相で、元軍人だけに中国人民解放軍とのつながりが深い。いまやタイ政府は、デジタル人民元の本格的な導入を検討している。中国はタイの高速鉄道整備計画に協力しているが、両国の経済力の差はあまりに大きい。将来的には中国がタイの鉄道網を実質的に支配するだけでなく、デジタル人民元の普及によって、中国の経済圏に飲み込まれる危険性すら指摘されている。

米中覇権争いの行方

 では、米中のデジタル通貨を巡る覇権争いの行方はどうなるのか。仮に米ドルが“デジタル基軸通貨”の地位を得たとしても、競争は終わらない。デジタルルピー(インド)といった第三極の登場も予想されており、地球規模でデジタル通貨圏を巡る“陣取り合戦”が始まるだろう。少しでも多くの国や地域を取り込めば、それだけ広い経済圏を支配下に置けるからだ。

 来たるべき新たな通貨秩序にわれわれはどう備えればいいのか。それは日本を世界が依存する強靭な国家にすることだ。ロシアは戦時下にありながら、エネルギーや物資をタテに、ウクライナを支援する西側の国々をけん制し、経済制裁で譲歩を迫った。同様に、われわれは世界の国々が日本に頼らざるを得ない環境を構築すればいい。それは国際社会における、日本のプレゼンスを増すことにもつながるだろう。

 今後も大幅に需要が高まる半導体などの核心部品と、その製造装置の供給が日本の大きな“武器”になる。いまでこそ、台湾や韓国の半導体が世界を席巻しているが、その生産には日本の製造装置が不可欠だ。こうした日本にしか作り得ない、高度な技術による製品がカギを握っている。

 世界に類を見ない新素材の開発も有効だ。川崎市には、砂から鉄を生み出す素材の研究を進めている企業がある。実用化されれば、日本は鉄鉱石を輸入せずに済むようになる。こうした先進技術を誇る日本企業は、全国に散在している。

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