なぜロシアは制裁に屈しなかった? 世界の基軸通貨は米ドルから人民元に? 中国が世界経済を支配する「最悪のシナリオ」
米ドルの弱体化
中国がサウジアラビアに決済通貨を米ドルから人民元に乗り換えるよう求めた理由は明らかだ。大国のサウジが動けば他のGCC諸国も同調すると見込んでいるからで、すでに多くの国際金融の専門家が「いずれサウジは人民元での決済を受け入れる」とみている。早ければ今年が“ペトロダラー制崩壊元年”になるかもしれず、それは米ドルの基軸通貨たる地位からの失墜を意味する。アメリカだけでなく、日本や西側諸国にとって最悪のシナリオだ。
昨年、米ドル基軸通貨体制を大きく揺るがす事態が勃発した。発端はロシアのウクライナ侵攻である。アメリカはロシアを潰す絶好の機会と捉えた。今後、圧倒的な経済力を背景に軍備の増強や挑発行為を繰り返す中国が、ロシアと共同でアメリカに対抗してくれば安全保障上の懸念が増大するからである。
弱い方からたたく方針を取ったアメリカは、2021年3月には、バイデン大統領は記者からの「プーチン大統領を人殺しと思うか」との問いに「イエス」と答えた。さらに侵攻開始の6日前には「現時点でプーチン大統領は(侵攻を)決断したと確信している」とロシアをあおった。プーチン大統領はその挑発に乗って軍事作戦を開始した。
バイデン大統領は金融面でロシアの“首”を絞めれば、プーチン大統領はすぐに音を上げると踏んでいた。“首”とは米ドル決済を拒否する措置のことで、SWIFT(国際銀行間通信協会・銀行間の国際金融取引に関するネットワークシステム)からの追放である。
SWIFTにはおよそ200の国や地域から、1万1千を超える金融機関が参加している。通信システムには、「いつ、誰が、どこで、誰から、何を買い、どれだけの対価を支払ったのか、それはどこで決済されるのか」といった情報が流れている。システムが利用できなくなれば、ロシアは一切のグローバル決済ができなくなる。本来なら、その時点でロシアはお手上げ状態に陥るはずだった。
米ドルを駆逐する千載一遇のチャンス
ところが、プーチン大統領は各国に自国通貨のルーブルでの決済を求めた。西側を含むロシア産の原油やガスに頼る国々は輸入を途絶えさせるわけにいかず、すぐにルーブルの調達を始めた。為替市場はドル安ルーブル高に振れ、ドル決済の比率が低下し、逆にルーブル決済の比率は上昇した。一時的なものとはいえ、この現象は米ドルの基軸通貨としての評価が弱まったことを意味する。中国はこれを米ドルを駆逐する千載一遇のチャンスと捉えた。その第一手が、習氏のサウジ訪問だったのである。
ところで、ロシアは原油と天然ガスの産出量がともに世界2位の資源国だ。数年前、ロシアの金融機関の関係者が「米中が半導体分野で覇権争いを繰り広げているが、俺たちが工業用ガスの輸出を止めたらどうするんだろうな」などとうそぶいていた。
現時点でロシアからの輸入に依存している国は、CIS(独立国家共同体)に加盟する10カ国をはじめ、統計ではおよそ50カ国に上る。世界の国数は196だから、約4分の1がロシアとの取引をやめるわけにはいかないのが現状である。
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