なぜロシアは制裁に屈しなかった? 世界の基軸通貨は米ドルから人民元に? 中国が世界経済を支配する「最悪のシナリオ」
「決済を米ドルから人民元に変えてほしい」
第2次大戦後、国際社会における法のスタンダードは英米法とされた。いまでも国際金融の世界における基準は英米法であり、世界の共通語も英語だ。ものづくりの基準も、かつてイギリスが作ってアメリカが世界に普及させたISO(国際標準化機構)規格である。企業の会計基準も英米式に倣うというように、世界経済は英米が用意した基準で動いている。
中国はそんな既存の秩序の変更に敢然と挑んでいる。象徴的な出来事が、昨年12月の習氏によるサウジアラビアへの訪問だ。習氏はGCC(湾岸協力理事会)にも出席し、周辺国の首脳たちに経済関係などの緊密化を提案した。その際、「輸出される原油の決済を米ドルから人民元に変えてほしい」と臆面もなく訴えている。この時、習氏は「サウジとイランの懸け橋になりたい」と両国の仲介も申し出ており、4月6日に行われた7年ぶりのサウジとイランの外相会談を演出した。
一連の習氏の動きに、私は「いよいよ来たな」との印象を禁じ得なかった。中国で社会主義市場経済が始まった94年~95年ごろ、勤務先の金融機関で中国政府に対する資金の貸し付けを担当していた時のことだ。中国の財務部職員から「おかしいと思わないか? どうして原油は米ドル決済と決まっているんだ。どうして日本は円で決済しないんだ? 日本はGDP世界第2位の経済大国じゃないか」と言われた。30年近くも前から、中国はペトロダラー制に強い不満と疑問を感じていたのだ。
急速にムハンマド皇太子との関係を悪化させたバイデン大統領
先の習氏の動きで重要なのは、訪問先が世界第3位の石油産出国であるサウジアラビアだったことだ。習氏は首都・リヤドの王宮で、サルマン国王より先にムハンマド皇太子と会談した。確かに皇太子は将来の国王と目され、国政に大きな影響力を持つ実力者だ。が、私はこの背景に、2018年に起きたサウジアラビア人記者のジャマル・カショギ氏の殺害事件があるとみている。
かねてカショギ氏は、ムハンマド皇太子に批判的な言説で知られ、17年に拠点をアメリカに移してからもサウジアラビアにおける言論弾圧の実態や、隣国のイエメンで続く内戦への介入を激しく批判する記事を発表していた。その矛先は主に皇太子で、それが原因でカショギ氏は訪問先のトルコのサウジ領事館内で殺されたとみられている。
ムハンマド皇太子は、イラン核合意から離脱するなど対イラン強硬派だったトランプ前大統領と親しい関係にあった。ところがバイデン大統領は、悪化したイランとの関係を修復する方針を掲げた。カショギ氏の不審な死についても「ムハンマド皇太子が暗殺作戦を承認した」とするCIAの報告書を公開し、急速に皇太子との関係を悪化させた。習氏はそこにつけ込み、実力者の皇太子に「この際、ドルでの決済を人民元に」とオファーしたのである。
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