なぜロシアは制裁に屈しなかった? 世界の基軸通貨は米ドルから人民元に? 中国が世界経済を支配する「最悪のシナリオ」

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なぜ基軸通貨になることができた?

 米ドルが世界に基軸通貨として認められた経緯はこうだ。第2次世界大戦後、戦勝国のアメリカは欧州各国から、貸付金や輸出品の代金を、信用力が落ちた各国の通貨の代わりに金(ゴールド)で回収し、世界最大の金保有国となった。その後、アメリカは国の復興を急ぐ各国との貿易に力を注ぎ、「米ドルでの決済」を定着させていった。

 本来なら建国から200年にも満たない国の通貨は信用力に乏しい。ところがアメリカには大量の金があった。1944年にスタートした金ドル本位制=ブレトン・ウッズ体制が戦後の金保有量の増加でより強固になり、米ドルが国際的な基軸通貨として定着したのである。1ドル=360円とされたのもこの頃のことだ。

 この金本位制は1971年にニクソン大統領が米ドルと金との兌換を停止した、いわゆるニクソンショックによって終焉(しゅうえん)を迎えた。概念的には金の裏付けがなくなることから米ドルの価値が下落する危険性が高まるが、当時ニクソン政権で国家安全保障担当の大統領補佐官だったキッシンジャーは、世界中のモノやサービスの決済で米ドルが使われ続ければ、将来も米ドルが基軸通貨として君臨できると考えた。

ペトロダラー制

 1970年代は世界のエネルギーのほぼ100%が石油に依存していた。そこで彼は、原油取引の決済をドルに固定すれば、あらゆる国や地域の経済活動を支配下に置けることに気付く。金とドルの交換が停止されると、キッシンジャーは政情が不安定だった中東諸国を訪問。先々でアメリカが中東地域の平和を担保すると申し出る一方、見返りとして各国が原油を輸出する際は必ず米ドルで決済することを求めた。各産油国は圧倒的な軍事力を誇るアメリカの要求を受け入れ、この商慣習が定着した。

 原油が「1バレル=〇ドル」と決済されるのは、この時からである。やや古い表現ながら、国際金融の世界では金ドル本位制を廃止した後の体制を「ペトロダラー制」と呼ぶ。“石油本位制”というイメージで、とくに80年代に多用された。

 改めて指摘すると、産油国が米ドルでの決済を受け入れた最大の理由は、アメリカが世界最強の軍事力を保有していたからだ。ところが、最近は超大国・アメリカのプレゼンスが低下しつつあり、対照的に軍事的にも経済的にも中国の台頭が著しい。アメリカや欧州は中国を「価値観の共有ができない国」と非難するが、その背景には「中国は西側の標準に従わないけしからん国」とのホンネがある。戦後、民主主義陣営が培った国際秩序が脅かされていると感じているのだ。

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