なぜロシアは制裁に屈しなかった? 世界の基軸通貨は米ドルから人民元に? 中国が世界経済を支配する「最悪のシナリオ」
極めて有効な戦略兵器を保持することと同義
誤解を恐れずに言えば、基軸通貨を保有することは極めて有効な戦略兵器を持つことと同義だ。最も大きなメリットは世界で通用する通貨を自国で生み出せる点にある。例えば、100ドル札の原価はわずか20セントほど。アメリカは100ドル札を1枚印刷するだけで、原価の500倍ものモノやサービスを世界中で手に入れることができる。
もちろん、無計画に刷ればハイパーインフレを招きかねない。だからアメリカは各国に国債を売りつけて、その価値を担保している。現在のアメリカの債務残高は30兆ドル超で、円に換算すると4千兆円に達する。アメリカは世界一の借金国だが、それでも超大国の地位を維持できているのは米ドルに基軸通貨という信用があるからに他ならない。これこそが、アメリカが超大国として君臨し続ける力の源泉ともいえる。
決済の際、為替の変動リスクがないことも大きなメリットだ。私たちが海外の旅先で円を米ドルに両替する時、為替市場が円高ドル安なら得をするが、逆の場合は損をする。それが数十億ドルから数百億ドルという額のビジネスシーンだったらどうか。為替差損を被るリスクがないことが、いかに大きな強みなのかが分かるだろう。
世界中の取引、資金の流れを把握
基軸通貨は他国と交渉する際の大きな“武器”にもなる。2014年にはフランス最大手の銀行BNPパリバが、アメリカが金融制裁の対象としていたスーダンやイランなどと金融取引を秘密裡に続けたとして、アメリカ政府から総額89億ドル(約9千億円)もの罰金を科された。翌15年には外国為替市場における指標レートを不正に操作した、イギリスのロイヤル・バンク・オブ・スコットランドなど金融6社が数千億円規模の制裁を科されている。
こうした海外の金融機関による不正を、アメリカ政府はどうして把握できたのか。それは、国際貿易のおよそ6割が米ドルで決済されているからだ。米ドル決済とは、アメリカの金融機関を通じた決済を意味する。つまり、アメリカ政府は自国の金融機関を介して世界中の政府機関や企業の取引、資金の流れを把握できるのだ。しかも、利用される金融機関は手数料収入による莫大な利益を手にしている。
各金融機関に蓄積される、グローバルな商取引データは膨大で、貿易の最新トレンドの把握や将来的な成長産業などを見極めることにも役立つ。基軸通貨の保有は、世界経済を支配することに限りなく近い。
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