なぜロシアは制裁に屈しなかった? 世界の基軸通貨は米ドルから人民元に? 中国が世界経済を支配する「最悪のシナリオ」

ビジネス

  • ブックマーク

 憲法改正で任期を撤廃した中国の習近平国家主席は、いまや事実上の“終身国家主席”の地位にある。覇権主義者の習氏はいま、人民元の基軸通貨化をもくろんでいる。戦後の国際金融秩序を根底から揺るがす試みの実態を、国際金融経済学者の真田幸光氏が解説する。

 ***

 ロシアのウクライナ侵攻から1年余りが過ぎた。西側諸国による厳しい経済制裁にもかかわらず、プーチン大統領は「勝利を確信している」と強気の姿勢を崩さない。核兵器の使用をほのめかし、友好国のベラルーシに戦術核兵器の配備を宣言。明白な侵略戦争を、いまも“特別軍事作戦”と正当化する姿は独裁者そのものだが、そのロシアを水面下で支えているのが中国である。

 中国の狙いは、米国に取って代わり世界に冠たる覇権国家になることだ。習近平国家主席はその野望を隠そうともしない。複数の偵察用気球を飛ばして超大国・アメリカの領空を侵犯しながら、気球が米軍に撃墜されると謝罪どころか「明らかに過剰反応であり、厳重に抗議する」と開き直ったのは記憶に新しい。

 背景には習氏の覇権主義(ヘゲモニズム)がある。自分たちの考え方や制度を世界標準とし、それに他国を従わせて自国の利益を確保するやり方ともいえる。覇権主義国家は世界の人々が生きていくために必要なモノやサービスの独占を狙う。水や食料、原材料、エネルギー、そして物流だ。これらを支配できれば自分たちに逆らう国はなくなるからである。

人民元を世界の基軸通貨に据えようと画策

 いまや覇権主義をむき出しにする中国は、自国通貨の人民元を米ドルに代わる世界の基軸通貨に据えようと画策している。その狙いを解説する前に、基軸通貨とは何かを説明しておこう。

 グローバルビジネスの現場では、決済の際に世界のどこでも通用し、価値が安定している通貨が必要だ。これが基軸通貨であり、現在は米ドルがそれに当たる。最近はクレジットカードでの支払いが主流だが、私たちは海外旅行や出張の際、円を訪問先の国の通貨に交換する。しかし、いまもアジアや中東、アフリカでは米ドルでの支払いが可能なことが多い。理由は、米ドルが基軸通貨として高い信用を勝ち得ているからだ。

次ページ:極めて有効な戦略兵器を保持することと同義

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[1/8ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。